知っておきたい採用・労働条件に関する留意点

■スタッフを採用する際の面接時に聞いてはいけないこと

[面接で聞いてはいけない代表的な事項]
①人種・民族・門地・本籍・出身地に関連する質問
②家庭環境(資産状況,持ち家か借家かなど)に関連する質問
③家族の状況(父母の学歴や職業など)に関連する質問
④ 思想・信条など(宗教,支持政党,購読新聞・雑誌,愛読書,労働組合の加入状況など)に関連する質問
⑤セクハラ(スリーサイズ,恋人の有無など)につながる質問
[とくに女性に聞いてはいけない代表的な事項]
①恋人の有無に関する質問
②お茶くみをどう思うかという質問
③既婚か未婚かを問う質問
④子の有無に関する質問
⑤何歳くらいで結婚したいかという質問
⑥子を持つ予定があるかどうかという質問
⑦結婚後も勤め続けるか否かに関する質問
⑧出産後も勤め続けるか否かに関する質問
⑨将来,夫の転勤があっても働き続けるつもりがあるかどうかに関する質問
⑩スリーサイズに関する質問
(職業安定法他)

■スタッフを採用する際に明示すべき労働条件の内容

(1)書面を交付することにより明示すべき事項
[必ず明示しなければならない事項]
①労働契約の期間に関する事項
①− 2 有期労働契約を更新する場合の基準
②就業の場所および従事すべき業務に関する事項
③ 始業・終業の時刻,所定労働時間を超える労働の有無,休憩時間,休日,休暇,スタッフを2組以上に分けて就業させる場合における
就業時転換に関する事項
④ 賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金を除く)の決定,計算および支払の方法,賃金の締切り,支払の時期,昇給に関する事項
(ただし昇給に関しては書面で明示しなくてもよい)
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(2)書面以外の方法での明示も可能な事項
[制度を設ける場合に明示しなければならない事項]
⑥ 退職手当の定めが適用されるスタッフの範囲,退職手当の決定,計算および支払の方法,退職手当の支払の時期に関する事項
⑦臨時に支払われる賃金(退職手当を除く),賞与,これらに準ずる賃金,最低賃金額に関する事項
⑧スタッフに負担させるべき食費,作業用品その他に関する事項
⑨安全および衛生に関する事項
⑩職業訓練に関する事項
⑪災害補償,業務外の傷病扶助に関する事項
⑫表彰および制裁に関する事項
⑬休職に関する事項
(労働基準法)

■産前・産後休業および育児休業の要件

[産前・産後休業の要件]
 産前・産後の休業は,母性を保護するために,労働基準法で認められた制度。母性保護という観点からも,使用者である医院は,次に掲げるところにより,女性スタッフには産前・産後休業を与えなければならないという義務を負う。
 ①産前休業/6週間(多胎妊娠の場合は14 週間)以内に出産予定の女性スタッフが休業を請求した場合
 ② 産後休業/女性スタッフからの請求の有無に関係なく,産後8週間経過しない場合(ただし,産後6週間を経過した女性スタッフが請求した場合は,医師が支障ないと認めた業務に就業させることができる)
(労働基準法)
[育児休業の要件]
 育児休業は1歳(父母がともに育児休業を取得する場合は1歳2ヵ月,保育所に入れないなど一定の要件を満たした場合には1歳6ヵ月もしくは2歳)に満たない子(実子・養子を問わない。法律上の親子関係に準ずる子を含む。)を養育する場合,雇用を継続したまま一定期間休業することを認めている。
(育児・介護休業法)
[育児休業の対象より除外される者]
①日々雇用される者
②期間雇用者であって次のいずれかに該当する者
  (a)雇用されてから1年未満の者
  (b)子が1歳6ヵ月に達する日までに,その労働契約が満了することが明らかな者
③職場のスタッフ代表と締結した書面による協定に定めた場合は次の者
  (a)雇用されてから1年未満の者
  (b)休業申し出の日から起算して1年以内に雇用関係が終了することが明らかな者
  (c)1週間の所定労働日が2日以下の者

 なお,産前休業・産後休業は女性スタッフにのみ認められた制度であるのに対し,育児休業は男性スタッフにも認められている制度である。産休・育休いずれの場合も,その請求を認めず,辞めさせることは法違反になる。
(労働基準法)

■セクハラ防止のための配慮すべき事項

① 事業主の方針の明確化およびその周知・啓蒙……就業規則等の服務規律条項や懲戒条項などで,セクハラ防止規定を定めること
②相談・苦情への対応……苦情処理制度を設けること
③ 職場においてセクハラ行為が生じた場合の事後の迅速かつ適切な対応……相談担当者が迅速に事実確認を行い,事案の内容に応じて配置転換など雇用管理上の措置を講ずること
(男女雇用機会均等法)

■男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置

(1)保健指導または健康診査を受けるための時間の確保
女性スタッフが妊産婦のための保健指導または健康診査を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
(2)指導事項を守ることができるようにするための措置
妊娠中および出産後の女性労働者が,健康診査等を受け,医師等から指導を受けた場合は,その女性労働者が受けた指導を守ることができるようにするために,事業主は勤務時間の変更,勤務の軽減等,必要な措置を講じなければならない。
※指導事項を守ることができるようにするための措置
 ○妊娠中の時差通勤,勤務時間の短縮等の措置
 ○妊娠中の休憩時間の延長,休憩回数の増加等の措置
 ○妊娠中または出産後の症状等に対応する作業の制限,休業等の措置

■労働基準法における母性保護規定

(1)産前・産後休業
産前6週間(多胎妊娠14 週間)<女性が請求した場合に限る>
産後は8週間<女性を就業させることはできない>(産後6週間を経過後に本人が請求し,医師が支障ないと認めた業務については,就業可能)
(2)妊婦の軽易業務転換
妊娠中の女性が請求した場合には,他の軽易な業務に転換させなければならない。
(3)妊産婦等の危険有害業務の就業制限
妊産婦等を妊娠・出産・哺育等に有害な業務に就かせることはできない。
(4)妊産婦の時間外労働・休日労働・深夜業の制限
妊産婦が請求した場合には,時間外労働・休日労働,または深夜業をさせることはできない。
(5)妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限
変形労働時間制適用下であっても,妊産婦が請求した場合には,1日および1週間の法定時間を超えて労働させることはできない。
(6)育児時間
生後満1年に達しない生児を育てる女性から請求があった場合には,1日2回各々少なくとも30 分の育児時間を与えなければならない。

■育児のための両立支援制度

■育児のための両立支援制度

■所定外勤務の免除制度

<制度の概要>
3歳に満たない子を養育するスタッフが申し出た場合には,所定勤務時間を超えて勤務させることができない。

<対象となるスタッフ>
原則として3歳に満たない子を養育するすべてのスタッフ(男女とも)が対象。ただし,同医院での勤続年数1年未満のスタッフと週の所定勤務日数が2日以下のスタッフは,労使協定がある場合には対象外。

<手  続>
所定外勤務の免除の申出は,1回につき,1ヵ月以上1年以内の期間について,開始予定日と終了予定日等を明らかにして,開始予定日の1ヵ月前までに,医院に申し出る必要がある。

(稲好智子著『図解:歯科医院の人事労務に関する50 の留意点』(クインテッセンス出版刊)より抜粋)