評者:齋藤 淳(東京歯科大学歯周病学講座)
卒前教育において学生は,臨床基礎実習で歯周外科治療に必要な基本的な切開・縫合法を,模型上での実践をとおして学んでいる.しかし,実際に臨床で行う場合,模型とのさまざまな違いにとまどうことが多い.また,ある程度,歯周外科治療の経験を積んだうえで,新たな術式にチャレンジする場合,「ここは何を使って,どのように切開すればよいのか」,「縫合糸はどれを選択し,どの縫合法を選択すればよいのか」などの疑問が生じてくる.
本書は,タイトルにあるとおり,切開と縫合に焦点をあてて詳細に解説している.「Chapter 01 切る」では,切開に用いる器具,切開の基本や血流を意識した手技について記載されている.「Chapter 02 縫う」では,縫合の目的,縫合糸や針の種類,各種縫合法が紹介されている.「Chapter 03 結ぶ」は,結紮の目的と,各種縫合に必要なさまざまな結紮法を提示している.歯周外科治療を初めて行う場合だけではなく, よりアドバンスな治療にステップアップする際によいガイドとなる.
初学者は,たとえば連続縫合の場合,何となく理解できても,いざ実践するとなると,最初の刺入をどこにして,針をどのように進めて,最終的にはどう結紮するのか迷うこともあろう.本書は,豊富な画像やイラストを使用し,他書ではさらっと書いてある部分についても,まさに行間を埋めるような詳細な解説がある.この解説は,著者の豊富な実践経験に基づいたものだろうが,それだけではなく,文献的な根拠も示されている.もっとも重要な「なぜ,そうするのか」という目的が明確にされているので,それを達成するための手技の考え方もスッと頭に入りやすい.さらに随所に「Kotaro’s view」として,要点・注意点が示されており,あたかも著者がそばにいて,アドバイスを受けているようである.
巻末には,著者が実際に使用したうえで,推奨する器具が紹介されている.読者が器具を購入する際に,参考になるであろう.ただし,同じ器具を使ったからといって,著者の卓越した技術の域にすぐに到達できるはずもなく,地道な修練を重ねる必要があ
るのはいうまでもない.
評者自身も本書を手にするまで知らなかった内容も多く,大変勉強になった.ちなみに,「はじめに」で紹介されていたスペインの料理教室に,いつの日か参加してみたいと思った.「料理も外科手術も相通じるものがある」とは,巨匠(著者)のことばである.