評者:前田祐二郎(東京大学医学部附属病院トランスレーショナルリサーチセンター)
著者の長縄先生と評者はデジタルハリウッド大学大学院(通称デジハリ)に通う仲間である.デジハリにはIT・デジタル,クリエイティブの力を医療に用いるデジタルヘルスで世界を変えようとする医師が集まっている.そこに歯科医師の集結も数年前から始まっており,大学病院の口腔外科で口腔顔面領域の難治性疼痛の研究・治療を続けてこられた長縄先生と医療機器の開発・事業化を中心にイノベーション領域で活動する評者の人生が交わった.
出会った頃,長縄先生は世界で普及が進み,日本でもベンチャー企業が成長している遠隔医療を,歯科の領域でも導入しようとする挑戦を行っていた.挑戦のなかで,歯科がない病院・施設でオーラルケアを行っているのは歯科医師や歯科衛生士といった口腔領域の専門家ではなく,看護師や介護士といった職種の人であり,歯科医療従事者同士なら通じる口腔の解剖学的部位や修復方法といった専門用語での会話が,とくに遠隔医療では伝わらないという事実に気が付いた.同じ気付きであれば,大学病院口腔外科,病院歯科などにいて,ICUや病棟の医師,看護師からコンサルを依頼されたことのある歯科医師・歯科衛生士なら経験があるだろう.この気付きをきっかけに,デジハリの先輩の1 人である一般社団法人訪問看護支援協会の代表理事である高丸氏とBOC(Basic Oral Care)プロバイダー講座を立ち上げたのだ.
本書はそのBOCプロバイダー講座の内容をまとめた教科書ではない.
第1 章は,BOCとは何なのか,BOCプロバイダーとはどんな人たちなのかの解説,第2 章は講座のコンテンツである多職種の専門家がそれぞれの視点からみた口腔への考え方を語る講演の講演メモ,第3 章はBOCプロバイダーとしてそれぞれの職場で活動する人たちの実践,学びの継続の紹介となっている.読了して伝わってくるのは,講座を受講してBOCプロバイダーとなったさまざまな職種の人たちが,それぞれの立場でインフルエンサーとして口腔の重要さ・オーラルケアの大切さを伝播していく,その活動のために互いに学び続ける拠りどころを提供するBOCコミュニティーを発展させていきたいという長縄先生の想いである.その想いに触れて,やはりデジハリのスローガンである「バカにされよう,世界をかえよう」を思い出す.オーラルケアのインフルエンサーにより世界を変えようとしている長縄先生の挑戦を応援している.