2022年1月号掲載
唾液の可能性から新しい価値の創造を目指す
口腔の健康と全身の健康の関連性が注目を集めるなか、2021年4月に創設された日本唾液ケア研究会(槻木恵一理事長)が11月28日を「いい唾液の日」に申請し記念日として認定された。本欄では、長年唾液の研究に尽力されてきた槻木氏に唾液の魅力ならびにその可能性、記念日を制定した思いについてうかがった。
槻木:私は2007年から口腔局所に対する唾液・唾液腺の役割だけでなく、それらと全身の連関性を科学的に明らかにする研究分野として唾液腺健康医学を提唱してきました。
当時、唾液の成分や効能は副次的な位置づけでしたが、唾液腺から全身の影響を検討する猿田グループによる唾液腺‐脳相関の研究や、全身から唾液腺への影響を検討する山本グループによる唾液腺でのIgA増加という腸‐唾液腺相関の研究など、興味ある知見が集積されてきました。
口腔における外来異物の排除能は、疾患の有無を決めていて、その外敵からの防衛機能を担うのが唾液です。2002年頃からドライマウスのブームによって唾液の重要性が周知されてきました。唾液の機能は、量と質(成分)の側面があり、量が少なければドライマウスを引き起こし、また質の面では、唾液中には100種類以上の物質が含まれているため、抗感染物質の低下は感染リスクを高めます。この感染リスクは、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症にも含まれ、口腔疾患だけではありません。特に昨今の新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、国民の健康への関心度はさらに高まっていて、今こそチャンスといえます。
これから求められる新しい時代への唾液の歯科医療への浸透は、量の重要性とともに質の維持・向上がキーポイントであると考えています。このことから、唾液が良好な口腔環境を獲得させる機能水として国民の健康の一助として受け入れられることで、口腔ケアの重要性に新たな意義が追加されることになり、歯科医療の拡大につながることを期待しています。もちろん、これは国民の健康を守るためであり、その最前線にいる歯科医療関係者とも問題意識を共有し、さらなる歯科の活性化を目指すべくこれまでの点としての活動から面として広げる活動への展開が必要と考えています。
また、唾液の量と質の2つの面から捉える新しいコンセプトである「唾液力」を向上させる取り組みを普及させる唾液ケアとして、日頃から口腔ケアや保健指導を行い、患者さんの口腔の健康を支える歯科衛生士は、大きな役割を担っていると思っています。
私たち日本唾液ケア研究会は、11月28日(いいつばの日=いい唾液の日)を記念日と制定し、唾液の量と質を両輪ととらえ、唾液の機能を向上させる方法を唾液ケアとして普及することを目的としています。今後は、唾液の量と質に注目した健康普及・啓発活動を通じて、新時代の唾液像を提示し、国民の健康に貢献したいと考えています。