評者:久島文和/稲毛滋自*(大阪府・くしま矯正歯科,日本矯正歯科学会臨床指導医/*神奈川県・いなげ矯正歯科医院,Instructor and Examiner of Charles H. Tweed International
Foundation)
治療方針の決定を迷う矯正患者に出会った時の必携の書
本書はアレキサンダー先生が2016年に出版された矯正臨床シリーズ第3巻の日本語版である.開咬,過蓋咬合,外科併用かどうかのボーダーライン症例,Ⅲ級症例,早期治療,成人矯正,変則的な抜歯症例,埋伏歯や移転歯や欠損歯症例など,いずれも矯正臨床医として興味ある非典型的な8項目について24症例を提示している.こういった症例の治療方
針には定石がなく担当する先生によりかなりの幅があると考えられる.私の場合,まず初診時の資料から自分なりの治療計画を考え,後にアレキサンダー先生の治療方針と結果を比較することですべての症例を興味深く読むことができた.アレキサンダー先生はそれぞれの症例について,治療計画,評価,考察,長期安定性と分けて簡潔かつ明快に解説されており,先生が一人ひとりの患者を大切にされていることを改めて感じた.
本書の各症例には数多くの経過写真があるので,非典型的な症例に出会ったとき,類似した症例を参考に診断したり患者さんの説明に活用することができる.前著の「アレキサンダーディシプリン20の原則」および「アレキサンダーディシプリン長期安定性」とともに,このテクニックをされている先生方はもちろん,されない先生方にも日々の臨床に大いに役立つと確信する一冊である.
(評・久島文和)
不世出の矯正歯科医Dr. Alexanderからのヘリテージ
Dr. Alexander は2022年4月21日に神のもとに召された.Dr.Tweed門下の大先輩である先生とは過去3回お会いし,うち2回は先生の個人的な時間を拝借して私のつたない治験例に心温まるアドバイスをいただいたことを鮮明に覚えている.さて,アレキサンダーの矯正臨床シリーズ第3巻「アレキサンダーディシプリン 非典型症例と難症例」の日本語版が上梓された.この本の冒頭で先生は,「矯正歯科という専門分野が進化していくなかで,患者さんの健康と福祉のために何が適切で最善の治療であるかに焦点が当てられることが私の願いです.」と述べられている. 先生の人としてプロフェッショナルとしてその高潔さに胸を打たれた.本書は九つのカテゴリーに分けられた非典型症例と難症例について,それぞれの章の冒頭で不正咬合の病因や治療方法の概説がなされ,続いて初診時から長期予後に至るまで経過がつまびらかに写真で開示されている.加えて治療で用いたワイヤーシークエンスや治療のメカニックスが記載され,顧みて治療結果の評価や考察などが述べられている.私はページを捲った瞬間から本書の虜になり時間の経過を忘れ一気に読了してしまった.
テクニックに関係なく矯正歯科治療を専門とする先生や矯正歯科を志す先生方にとって本書は,非典型症例と難症例を治療する際の羅針盤の役割を担ってくれるものと思う.
(評・稲毛滋自)