学会|2024年11月26日掲載
「口腔外科学の創造的進化へ向けて Creative Evolution toward New Oral and Maxillofacial Surgery」をテーマに
第69回(公社)日本口腔外科学会総会・学術大会を開催
さる11月22日(金)から24日(日)の3日間、パシフィコ横浜(神奈川県)において、第69回公益社団法人日本口腔外科学会総会・学術大会(池邉哲郎大会長・理事長)が開催された。本大会は、現地での特別講演1題、教育講演5題、海外招聘講演1題、関連学会理事長講演1題、シンポジウム9題、海外や他学会との合同によるシンポジウム7題、一般口演、ポスター発表などに加え、Web配信によるミニレクチャー44題、ビデオレクチャー13題と、多岐にわたる構成で繰り広げられた。
口腔外科医にとって手術の原点ともいえる抜歯をテーマに開催された「シンポジウム 初心忘るべからず、抜歯術のプロフェショナリズム」では、まず親知らず抜歯専門クリニックを運営する畠山一朗氏(東京都開業)が登壇。「前例がない」「うまくいかない」など否定的な声があったなかで開業にこぎつけ、いまや予約の取れない、収益を上げる医院となった軌跡を振り返りながら、「世の中は高い専門性を求めており、その期待に応えるだけの技術を磨き、結果を残すことが重要」と述べるとともに、自身の取り組みをとおして口腔外科全体を盛り上げていきたいとの意欲を語った。
つぎに山城崇裕氏(福岡県開業)が下顎智歯抜歯の適応について講演。自院の抜歯症例で撮影したパノラマX線写真とCTデータをもとに、根の形態や歯石の状態などを詳細に調べた結果、24歳を超えると加齢とともに抜歯が難しくなる症例が増加することを報告。23~24歳頃は歯根の完成時期と重なることから、下顎埋伏智歯は難易度や併発症を低減させるためにも、それ以前の若い年齢で行うのが良いとの見解を述べた。
続いて、堀之内康文氏(前 公立学校共済組合九州中央病院歯科口腔外科)から、下顎埋伏智歯抜歯の代表的な併発症である下歯槽神経・舌神経の麻痺、気腫、舌側軟組織内迷入について、その原因と予防法、発生時の対処法について、写真や動画を交えてわかりやすく解説。手術中のトラブルは、見ていない・見えていないことが原因と述べ、併発症全般を回避するためには“直視・直達”が大原則であると強調した。
最後に、栗田賢一氏(愛知学院大学名誉教授)から、下顎埋伏智歯抜歯時の下歯槽神経損傷を避けるために歯冠部のみを切除し、問題がない限り歯根部は残存させる歯冠切除術(コロネクトミー)について、在職中の15年間にわたる555歯の観察結果より、その成績と成功率向上のポイントを解説。歯根抜歯となった症例の原因をふまえながら、本法は下歯槽神経損傷リスクが少なく、残存歯根は中期的に下顎骨内で安定していること、術中にエナメル質の完全除去が高い成功率を得るために重要であることを報告した。
そのほかにも、MRONJポジションペーパー2023、唇顎口蓋裂治療、口腔顎顔面外傷治療、口腔癌治療、顔面非対称症例の治療、若手口腔外科医への教育など、多彩なテーマによるシンポジウムが展開され、いずれの会場も聴講者の熱気であふれ、活発な議論が繰り広げられた。
本年元旦の震災を受けて企画された「特別報告 備えよ! 能登半島地震と病院歯科の役割~口腔被害の意外な理由とは~」では、能登地方唯一の病院歯科口腔外科であり、被災地域の当事者として診療や支援に携わっている長谷剛志氏(公立能登総合病院歯科口腔外科)が、発生直後から今日に至るまで時系列で現地の状況などについて報告。特に断水が3か月続いたことによる、被災者の生活面、衛生面、心理行動面などにおける影響の大きさを、スライドを交えて鮮烈に語った。また、満足な食生活も送ることができず、多大なストレスに晒される状況で、自院でも震災後、口渇・舌痛症、口内炎、誤嚥性肺炎の患者が例年と比較して3倍に増えるなど、被災者の口腔内の状況も提示した。11か月を経た現在も復旧が進まず、さらに9月の豪雨災害が追い打ちをかけるなか、いつ起こるかわからない災害に普段から備えておくことの重要性を当事者として強く訴えた。
本大会はWeb参加も含めて約6,200名にも及ぶ多数の登録があり、関心の高さがうかがわれた。なお、2024年12月6日より2025年1月末までオンデマンド配信による参加が可能となっている。次回学術大会は、きたる2025年11月14日(金)から16日(日)の3日間、福岡国際会議場(福岡県)で開催予定である。