評者:山﨑長郎(東京都開業 原宿デンタルオフィス)
素晴らしい臨床矯正治療の書が上梓された.私と著者は過去から現在に至るまでさまざまな局面で付き合いがあり,彼らの実直で嘘のない臨床に対し以前より深く敬意を抱いていた.それは決して奇をてらった臨床ではなく,患者中心の慈愛に満ちて地に足のついた矯正プラス一般治療の幅広い,われわれ臨床医が理想とするものである.また,長年地域に根差して診療していることもあり,予後の経過観察もしっかり見ることができていて,通常矯正医が考える予後をはるかに超える長期症例も提示されている.著者の強みとして咬合があり,術前術後の咬合の改善をすべてシロナソグラフで実証し,プラスMRI・CT・エックス線写真を駆使して改善を見事に実証している.そしてもっとも特徴的なチャプターは,われわれが一番悩む非抜歯・抜歯の選別診断を,本書ではすべての考えられる不正咬合症例に対して羅列し,各々理由づけをしている.このような構成はかつてないものであり,非常に興味深いものである.それプラス,部分矯正もまた一般矯正医には必要不可欠であるが,本書のように並列で全顎矯正と組み合わせているのが面白い.
それでは,全体の本の構成と各章の特徴を説明してみたい.
1章は一般臨床医に向けに矯正治療を紐解く前に知っておかなければならない診断方法(基礎資料・セファロ・咬合プロブレムリストなど)を平滑的にわかりやすく説明している.
2章は5章をより理解しやすいよう,非抜歯・抜歯治療の基本的な考え方を,従来考えられていることとは少しニュアンスを変えて解説している.
3章は咬合治療の意義である.この章は著者が長年取り組んできた咬合であり,よく整理されていて読み応えがある.とくに顎関節と全身との関係性は見事である.
4章は口の体操で,とくにその意義について長年の実績からその必要性をきちんと解説・説明をしている.
圧巻は5章で,すべての不正咬合の非抜歯・抜歯症例を比較して明確な治療方針と指針を詳細な治療ステップとともに提示している.このようなデザインは読み手としては新鮮でかなり興味深い.それと同時に部分矯正を矯正としては珍しくさまざまな症例を提示している.一般臨床医にとって馴染みやすく必要性が高いと思われる.
最後の6章はトラブルシューティングとアセスメントで,著者の正直さを表している.私自身の経験からも長い予後の中ではいろいろなことが必ず惹起するもので,その問題点をいかに解決するかが重要である.
いずれにしても著者の真摯な臨床に対する姿勢が見事に集約された一冊である.ぜひ購読し,矯正に対する考え方をもう一度修正し,見直してもらいたいものである.読み方は自由であるが,必ずや何らかの矯正治療のヒントが得られるものと期待
している.