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2022年2月号掲載

義歯補綴の臨床と教育に尽力する臨床家

歯科医師と患者さん双方が“義歯で困らない”世の中をつくりたい

 超高齢社会のなかでますますニーズが高まる義歯治療。その一方で、日々の臨床で悩む歯科医師が多いのが現状だ。そのような現場の課題解決と良質な義歯治療を提供できる人材輩出を目指し、臨床と教育の両面から挑む歯科医師・松田謙一氏。氏が義歯をとおして目指す世界とは――。

松田:多くの歯科医師にとって義歯臨床は「分からない、難しい」と感じる分野の一つであり、患者さんにとっても義歯治療は「痛い、噛めない」などのマイナスイメージのある治療法ではないでしょうか。

 私が大学在籍時に行った高齢者の疫学調査では、残存歯が20歯以下の高齢者(そのほとんどが義歯を使用)のうち、咀嚼に満足している人の割合は42.1%と半分にも満たない非常に低い結果でした。このデータは単純に残存歯が少なくなると、咀嚼の満足度が低くなるという解釈もできますが、“現在の義歯治療では高齢者を十分に満足させられていないのではないか?”という事実を表しているともいえます。つまり、われわれ歯科医師がもっと義歯治療を上手く行うことができれば、より多くの患者さんを満足させられるのではないかと思っています。

 また、私は大学で長く教員を務め、当時教授であった前田芳信先生とともに義歯の卒後教育に携わっていました。そして、ありがたいことに受講した先生方から非常に喜ばれることが多く、義歯教育の必要性とそのやりがいを実感していました。

 そこで、大学退職後は“良質な義歯臨床を患者さんへ”、“すぐれた義歯教育を歯科医師へ”を提供したいと考え、2019年から義歯教育機関「HILIFE DENTURE ACADEMY」を立ち上げ、卒後研修コースを始めました。おかげさまでたいへん好評をいただいております。また、第一線で活躍している若手の義歯臨床家とのつながりを活かし、SNSのオンラインサロン「HILIFE DENTURE ACADEMY ONLINE SALON」も開始し、すでに登録者は1,800名を超えています。義歯に関する有用な情報が毎週無料で配信されますので、義歯臨床に興味のある若手の先生方にはぜひ登録していただければ幸いです。

 近年のデジタル技術の発展により、CADデータ上でのデザインを経て、3Dプリンティングやミリングによって出力することが可能となり、義歯の製作工程は大きく変わりつつあるといえます。しかし、歯を失った患者さんの口腔機能を維持するという目的のために必要な義歯の形という本質はなんら変わることはありません。

 したがって、いつの時代においても“正しい義歯のイメージ”を構築するための教育はこれからも求め続けられ、高齢化が進むわが国では、ますますその重要性が高まると確信しています。これからも歯科医師と患者さん双方が“義歯で困らない”世の中をつくるために、できることを模索し続けようと思います。