2025年2月号掲載
災害に強い口づくりの大切さを発信し続ける
※本記事は、「新聞クイント 2025年2月号」より抜粋して掲載。
備えない防災の視点で「命を守るケア」を意識していただきたい
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から今年で30年――。災害歯科保健支援活動の草分け的存在である足立了平氏は、その日を迎えるたびに悔恨の念にかられるという。当時の苦い経験から肺炎予防のための口腔ケアを普及させる「命を守るケア」の重要性を発信し続け、今なお臨床現場に立ち続ける氏が歯科医療従事者に伝えたい災害への想いとは。
足立:兵庫県では阪神・淡路大震災の反省をふまえ、20年以上にわたって「医科・歯科一体の支援活動」の必要性を提唱し、被災経験者である私も被災地での活動や講演などで災害時に歯科の参加が必要であることを強く発信し続けてまいりました。歯科が参加することで災害関連死、とりわけ災害時の肺炎を予防することが期待できるからです。
日本では災害が多々発生していますので、過去の経験を活かし関連死を増加させない取り組みが重要です。そのためには、歯科医療従事者が口腔ケアはう蝕や歯周病の予防だけではなく、肺炎から「命を守るケア」であることを普段から多くの国民に周知する必要があります。また、災害は社会や身体の脆弱性を顕在化させますので、平時からの健康管理の1つとして歯科治療と定期的なケアによる「噛める・飲み込める口づくり」、つまり口腔機能の維持が大切です。それが災害時を生き抜く力となるのです。「災害に強い口づくり」とは、介護予防やフレイル予防と同様に「口腔機能の維持・向上」に他なりません。災害時の避難所ではオーラルフレイル対策が命を守るために非常に重要になります。
災害関連死の約90%が基礎疾患を有する有病高齢者であり、災害時には食の支援や服薬指導が必要になります。日本栄養士会や日本薬剤師会は災害に強い人材育成に力を入れていますので、歯科においても食支援にかかわる人材の育成が必要です。歯科医学教育においては、災害歯科医学に関する内容が歯学教育モデル・コア・カリキュラムに記載されていますし、口腔機能管理を中心とした地域連携の構築のためにも、多職種との積極的な交流を図ることが求められます。
神戸市長田区では、三師会・栄養士会・行政・病院・福祉施設などの代表者が定期的に集まり、大規模災害時の要支援者への対応について協議・公表しています。平時における多職種連携なくして有事に力を発揮することはできませんので、災害時の肺炎予防のための総合的なケアの中に歯科保健が抜け落ちないように知識と情報を共有しています。地域包括ケアシステムの構築が推進されるなか、災害時にも機能するために地域の実情に合わせてモディファイすることが求められます。
災害を止めることはできませんが、被害を軽減することはできます。減災・縮災のために歯科ができることはたくさんありますので、歯科医療従事者の1人ひとりが備えない防災(フェーズフリー)の視点で普段から「命を守るケア」を意識していただければと思います。