2024年9月号掲載
機能的マウスピース矯正装置の環境整備を推進する
矯正歯科治療を広く学べる場をつくり周知・普及させたい
令和4年歯科疾患実態調査によると、矯正歯科治療の経験者の割合は全体で7.7%であることが示された。本調査結果に対して矯正歯科分野の岡藤範正氏(松本歯科大学教授)は、「不正咬合は依然として多く、生涯にわたって健全な歯列および口腔内を維持するためには永久歯になってからではなく早期からの矯正歯科治療(予防・抑制矯正を含む)が必要」と指摘する。本欄では氏に、矯正歯科治療のツールとして注目を集めている機能的マウスピース矯正装置の現状と今後の展開についてうかがった。
岡藤:現在、第1期矯正治療の選択肢の1つとして、機能的マウスピース矯正装置が注目されています。機能的矯正装置の歴史は、アクチバトールやバイオネーターなどがありますが、基本的には成長発育期の口腔周囲筋を利用・排除することで歯や顎を移動させる装置です。これら装置の最大の利点は可撤式であり、装置製作時の構成咬合採得が重要な役割を担っていることも大きな特徴の1つです。
機能的マウスピース矯正装置は、それらが発展する形で開発された既成装置であり、現在日本でも6社ほどのメーカーから販売されています。早期の矯正治療に取り組む先生方は、患者さんにとって簡便でなおかつ取り入れやすい製品であるため、興味・関心が高いと推察されます。また機能的マウスピース矯正装置は、メーカー独自のコンセプトに基づいて開発されていて、口腔周囲筋の機能改善をはじめ、口呼吸から鼻呼吸への誘導、顎骨の成長発育の促進、低位舌の挙上、口唇閉鎖不全の是正など、目的や特徴もさまざまです。
そのようななか、機能的マウスピース矯正装置の導入を検討される先生方においては、メーカー主催の研修会やセミナーなどに参加してシステムを取捨選択しているのが現状です。またそれらを取り扱う各メーカーが集まり、そしてユーザーや導入を検討される先生方がともに学び・情報共有する機会はほとんどありませんでした。
そこで、先日私が大会長を務めた第1回機能的マウスピース矯正研究会学術大会(発起人・大塚 淳氏)は、小児のための1期矯正治療を推進・普及させる契機として、それぞれの特徴をもって開発・発展を遂げた機能的マウスピース矯正装置を臨床応用しているユーザーおよびメーカー各社が一堂に会し、垣根を越えて学びの場を広げることを目的としました。おかげさまで盛会となり、参加者からは「機能的マウスピース矯正装置をつうじて講師や参加者とさまざまな意見交換ができた」とうれしい感想もいただきましたので、今後の開催にも期待したいと思います。
もちろん歯科医療ですのでエビデンスのさらなる蓄積は必要ですが、今回のように機能的マウスピース矯正装置という同じテーマで、ともに学ぶ機会や情報共有する場をつくっていくことが、矯正歯科治療を広く周知・普及させることにつながると願っています。