2024年7月22日掲載
「はばたけ口腔医療」をテーマに
NPO法人日本口腔科学会、第78回学術集会を開催
さる7月19日(金)から21日(日)の3日間、東京大学安田講堂(東京都)ほかにおいて、第78回NPO法人日本口腔科学会総会・学術集会(星 和人大会長、片倉 朗理事長)が開催された。本学会は日本医学会に属する唯一の歯科系の分科会であり、基調講演2題、シンポジウム8題、理事長講演、大会長講演、指名報告2題、宿題報告、教育セミナー2題、新人賞受賞講演など、多彩なプログラムが展開された。
昨年改訂されたポジションペーパー2023を受けて企画された「シンポジウム MRONJに関わる臨床上のリスクという観点から病理的、画像的、臨床的に読み解く」では、岸本裕充氏(兵庫医大教授)から、抜歯などの侵襲的歯科治療よりも感染の有無を重視する必要があること、過去の骨吸収抑制薬の投与歴など、医歯薬の双方向の連携による対応が重要であることなど、改訂の方向性が説明された。田口 明氏(松本歯科大教授)は、歯根膜腔の拡大や著明な骨硬化があるなど、画像診断の立場からも、歯性感染を評価することと早期除去の重要性を述べた。北川善政氏(北大名誉教授)は、今回の改訂で予防的休薬は原則不要とされ、外科的対応の優先度が高まったが、地域によってはまだ対応に混乱があることを訴えるとともに、発症させないためには処方前の歯科受診と処方後も継続的な口腔ケアが必要であること強調し、連携した対応の構築が課題であると指摘した。
「シンポジウム 口腔癌の診断最前線」では、診断機器の開発や遺伝子解析などの最新状況について紹介。そのなかで平岡慎一郎氏(阪大講師)は、「口腔がん早期発見のための診断支援AI開発:臨床現場への導入に向けて」と題する講演で、数万枚の臨床画像とディープラーニング技術を用いた産学共同による口腔がん早期発見と診断支援のためのAIシステムの開発について報告。口内炎などの一般的な口腔内疾患との鑑別についても高精度に診断可能となった現状を説明するとともに、AI診断の責任者はAIではなく医師であるべきと述べ、AIに精通しより良く使用するためにも現場臨床に携わることの重要性を強調した。
「ポケットオーラルエコー®の開発」と題して登壇した林 孝文氏(新潟大教授)は、装置が高価であり、歯科にはなじみが薄い超音波診断について、自身が開発に携わる歯ブラシ型の探触子とタブレット型の本体による小型の超音波診断装置の開発について紹介。チェアサイドやベッドサイドでも使用可能であり、まだ承認審査を控えている段階であるが、口腔癌診断はもちろん、根分岐部病変や歯槽骨吸収などの診断にも活用できることから、将来的には一般歯科の日常臨床への普及もはかりたいとの展望を語った。
杉浦 剛氏(東北大教授)は、口腔癌は早期発見が重要なものの、検診での発見は容易ではないと指摘。発症前からのリアルタイムモニタリングにより早期発見につなげるとのコンセプトのもと、うがい液から口腔剥離細胞を回収し、口腔潜在的悪性疾患も含めて早期発見につなげるシステムの開発について報告した。
片倉氏(東歯大教授)は、理事長講演「口腔科学・口腔医療から人生100年時代に貢献する」のなかで、ホームページのリニューアルや学会誌への投稿の促進、DX化への対応、大学院生の会費割引など若手会員の入会促進やモチベーション向上など、これまでの取り組みを振り返るとともに、2期目に入り、医学会のなかの歯学領域である本学会の特性を活かして、口腔の原因疾患等を治療し、全身の健康に貢献する口腔医療の担い手として、よりいっそう医療者全般そして国民に発信していきたいとの所信を述べた。
星氏(東大教授)による大会長講演「なぜ口腔医療は、はばたけるのか」では、高齢者医療の現場で必須であり、また口腔という小さなサイズから全身の健康が見渡せる口腔医療は、現代の医療や社会の課題解決の重要な担い手であり、国民の健康のセーフティネットの中心となりうることを解説し、歯科と医科をつなぐ口腔医療の担い手である本学会が、その原動力としての役割を果たすべきと強調した。
また、3日目には広く日本国民に向けて本学術集会のテーマである「はばたけ口腔医療」の意図と内容を伝えるプレス説明会を開催し、「息をする」「食べる」「話す」「表情を作る」など、ヒトが人らしく生きるために必要な口腔は重要な臓器であり、本学会として責任をもって口腔科学・口腔医療を通じて、国民や人類の健康と幸福に貢献していくことを誓った「口腔医療東京宣言2024」を発出することを紹介した。
次回第79回総会・学術集会は、きたる2025年5月15日(木)から17日(土)の3日間、キッセイ文化ホール(長野県)において開催予定となっている。