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2024年11月号掲載

特別企画 歯科における口腔検査のあり方 日本口腔検査学会が目指す今後の方向性

※本記事は、「新聞クイント 2024年11月号」より抜粋して掲載。

 令和6年度診療報酬改定では主なポイントとして、口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進の中に「客観的な評価による歯科診療の推進」と記載されています。歯科保険制度上においても、今後ますます歯科医療における検査の重要性が注目されることが予想されます。
 本欄では、口腔疾患および関連病変の予防、診断、治療、予後に関する検査学をベースに、歯科における検査の普及・啓発を目指す日本口腔検査学会の松坂賢一理事長、津島克正副理事長、小野清一郎理事、そして第17回学術大会の平野浩彦大会長にご協力いただき、学会の取り組みと今後の方向性についてうかがいました。 (編集部)

歯科における診断と適切な検査の必要性

 本学会は2007年の発足以来、歯科治療には診断が必要で、そのためには適切な検査が必要であることを主体に考えて活動をしてきました。超高齢社会であるわが国では、ストレス社会と相まって有病率の上昇が今後も進んでいくことでしょう。疾患に罹患した場合には、患者さんのだれもが元の健康な身体に戻りたいと願うわけですが、術者である歯科医療従事者は疾患の状態と健康な状態との「客観的な評価」、すなわち臨床検査および口腔検査なくしては、判断ができません。
 令和6年度診療報酬改定での「Ⅲ-6口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進」の中で、厚生労働省は客観的な評価に基づく歯科医療の推進を掲げ、口腔検査の重要性を示しています。
 特に、口腔機能管理における指導に対する評価を分離することや、口腔機能低下症患者も口腔細菌定量検査の対象とすることが明文化されています。また、口腔機能発達不全症患者への舌圧検査の対象拡大、咀嚼能力および咬合圧検査の見直しなどが含まれています。これらは、歯科治療前の客観的な検査と治療後の評価を客観的に判断することで、国民の口腔の健康維持あるいは健康回復に期待しているものと考えます。さらに、歯周病の重症化予防の推進に関しては、歯周病安定期治療における糖尿病患者の管理も新設されていますので、歯科医療従事者も全身管理の一端を担う必要があるでしょう。
 本学会は日本歯科医学会の認定分科会の一学会として、歯科治療の第一歩である臨床検査および口腔検査を適切に取り入れた臨床を目標にし、他学会との協力を惜しまず、国民の健康に寄与するよう努力してまいります。

歯科における位相差顕微鏡の活用法

 位相差顕微鏡は、歯科において主に歯周病の診断や治療効果の評価に活用される重要なツールです。この顕微鏡は、生体試料を染色せずに観察できるため、プラーク中の細菌などの微生物をリアルタイムで観察できます。特に、スピロヘータや運動性桿菌など、歯周病の進行に関与する細菌群の活動性を見ることは、病態の評価において非常に有用です。
 歯周ポケット内から採取したプラークを即座に観察することで、細菌の形態や量、運動性を把握することができ、治療の適切な判断につなげることができます。たとえば、スケーリングやルートプレーニング後に再度プラークを採取し観察することで、治療前後の変化を視覚的に確認できます。また、抗菌剤の使用前後に細菌の減少や活動性の低下を評価し、治療効果のエビデンスとして役立てることができます。
 また、歯周病の発症や進行においては、バイオフィルムの量だけではなく、その質(悪性度)が重要なファクターとして認識されてきました。組織検査に加え、プラークコントロールレコード(PCR)だけではなく、細菌検査を行うことの重要性が増してきています。
 さらに、定期的な観察でその増減を追跡し、病態と照らし合わせることで、治療の必要性を判断し、SPT や再発の防止に役立てることができると考えています。
 位相差顕微鏡は患者教育にも効果的です。実際に細菌の動きを患者さんに見せることで、口腔衛生の重要性が直感的にイメージしやすくなり、セルフケアの意識を高めることが可能です。これにより、治療への協力や予防意識が向上し、歯周病の進行を防ぐことが期待できます。
 位相差顕微鏡検査だけに限らず、客観的な評価に基づく歯科医療の推進のためには、高次病院だけでなく一般歯科診療所においても口腔検査の普及が欠かせません。臨床現場で必要な検査がきちんと行われ、それが保険算定できるように、学会として必要な研修や支援活動を続けてまいります。

位相差顕微鏡を用いた検査の医療保険上の取扱い

 令和4年度診療報酬改定において、口腔細菌定量検査が歯科点数表に保険収載され、口腔内の細菌について定量分析が可能になりました。
 当学会は、口腔細菌の定性検査として位相差顕微鏡を用いた検査を推奨しています。これらの検査を活用して口腔細菌の定量分析と定性分析を実施することにより、従来のような術者の勘に頼るような歯科医療とは大きく異なり、臨床検査データや医療情報に基づいた、より現代的で科学的な歯科医療が実現します。
 位相差顕微鏡を用いた検査は、医科点数表に従来から収載されていました。歯科点数表に収載されている検査とは異なり、医科の検査では検査の実施に係る費用と検査結果の判断に係る費用を合算して算定します。本題の位相差顕微鏡を用いた検査は、右図に示す2つの算定項目を合算して1回200点を算定します。
 細菌顕微鏡検査については算定回数などの規定はありませんが、微生物学的検査判断料の算定については月1回に限ります。したがって、同月に複数回当該検査を実施した場合は、初回は50点+ 150点= 200点を算定し、2 回目以降は50点のみを算定します。

第17回日本口腔検査学会学術大会開催によせて

 このたび、第17 回日本口腔検査学会学術大会の大会長を拝命しました。今回は、私の母校である日本大学松戸歯学部で学術大会を開催させていただきます。松戸歯学部では創設50 周年記念事業として、新校舎「50 周年記念棟」を建設し、2024年4月1日から運用を開始しております。本学術大会は、300名が収容できる「50周年記念講堂」を中心に企画を運営いたします(詳細は学術大会HP をご参照ください)。
 当学会名称にある「検査」とは、「ある基準をもとに、異常の有無や適不適などを調べること」を意味し、ヒトを対象とした臨床検査は、「身体状態を知る」、「異常の原因(疾患等の有無)を調べる」、「治療計画の立案」、「治療効果の確認」などを目的として広く実施されています。
 口腔検査に目を向けると、臨床検査としての目的がよりいっそう活用される場面が増えている印象を受けます。これは近年の診療報酬改定の動向からも確認できます。報酬改定の重点的対応が求められる基本方針の1 つとして「口腔機能低下への対応」が掲げられ、2018 年度改定では、口腔機能発達不全症や口腔機能低下症に対する口腔機能管理が保険導入されました。さらに、2024 年度改定では「かかりつけ歯科医機能の評価」として、口腔機能管理に関する実績が評価されることになりました。
 これにより、乳幼児期、青年期、壮年期、さらに高齢期における、従来のう蝕や歯周病の重症化予防に加え、口腔機能の獲得・維持に資する口腔機能管理が、生涯を通じた口腔の健康維持に寄与することが期待されます。これら一連の改定の背景には、歯科医療機関を受診する患者像の変化や生活環境の多様化により、歯科疾患の疾病構造および治療内容が変化していることがあります。従来の歯科治療に加えて、全身的な疾患や患者の生活状況などもふまえ、個々の患者の状態に応じた口腔機能の獲得・維持・回復を目指す「治療・管理・連携型」の歯科治療が求められています。
 以上の趣旨をふまえ、臨床検査および口腔検査に関連した3 つの教育講演と、口腔検査に関する「ライフステージに沿った検討」や「地域歯科保健事業における活用」に関する2 つのシンポジウムを設けました。また、実際に口腔検査を体験いただける口腔機能検査・栄養評価ハンズオンセミナーや、「精密触覚機能検査」保険算定に資する精密触覚機能検査研修会(事前申し込み)も開催いたします(詳細は学術大会プログラムをご参照ください)。
 歯科治療を含む口腔健康管理を適切に提供するためには、ライフステージごとの患者個々の「物語」を読み取ることが重要であると考え、今回の大会テーマを「臨床検査で知る『くち』の物語」とさせていただきました。2 日間にわたり、口腔検査に関する知識やスキルを学び、考える機会として、さまざまな企画を盛り込みました。本学術大会が「臨床検査で知る『くち』の物語」を読み取る一助となれば幸いです。たくさんの皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます。