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2023年11月号掲載

新たな審美修復技術を開発した研究者

審美修復だけでなく再生医療の発展にも貢献したい

 昨今、機器の進化や技術の向上もあり、審美的な要求や最小限の侵襲によるアプローチ(MI治療)を要望する声は大きくなっている。そのようななか、傷んだエナメル質の修復と審美的な改善を同時に実現させる技術開発について、近畿大学・大阪歯科大学の両大学よりプレスリリースが9月11日に発表された。そこで本欄では、本技術の開発者の1人である橋本典也氏に研究概要やメカニズムについて解説いただくとともに、今後の技術の実用化に向けた展望をうかがった。

橋本:このたび、近畿大学(細井美彦学長)と大阪歯科大学(川添堯彬理事長・学長)の研究チームは歯科治療で使用するEr:YAG(エルビウムヤグ)レーザーを照射することで、エナメル質を修復しながら歯を白くする技術を開発しました。

 本技術は、本津茂樹先生(近畿大学名誉教授)と私が所属する研究グループが株式会社モリタ製作所(田中 博代表取締役社長)と共同開発し、歯の主成分であるハイドロキシアパタイト(以下、HA)を直接歯の表面に付着させることで、多岐にわたる要因によって引き起こされる歯の「着色」や「変色」を改善させるとともに、傷んだエナメル質を修復することを可能にしました。現在、主な審美歯科の治療法として、①研磨剤によるクリーニング、②漂白剤によるホワイトニング、③ラミネートベニア法――が用いられますが、いずれの方法もエナメル質にダメージを与えることが懸念されます。そのため本技術は、アレルギー反応を起こすことなくエナメル質を修復させる安全な審美修復治療として期待が高まっています。

 私はHAを用いたインプラント治療の研究をしていましたが、当時(2003年頃)は研究が難航していました。そのようなとき、本津先生がエキシマレーザーを用いたHAインプラントの開発を行っていることを知り、共同研究をお願いしたことがきっかけです。

 私たちは研究過程で、エキシマレーザーで行っていたHA被膜製作方法をEr:YAG レーザーに応用することが可能であることを確認し、2014 年頃より歯冠への臨床応用研究に着手しました。その結果、α-リン酸三カルシウムを歯面に堆積させてレーザーで数秒間照射すると、唾液と反応してエナメル質に強く固着し、口腔内でHA膜になる(エナメル質が再生する)ことを突き止め、その表面を磨くことで審美的な改善が見込めることを確認しました。

 なお、本技術は審美性の改善だけでなく、再生医療への応用にも高い可能性を感じています。骨補填材を用いて骨増生を行う技術は歯科において関心の高い分野ですし、この技術をそのまま骨再生の誘導に応用できれば、臨床家の先生にとっても興味深いのではないでしょうか。

 再生治療の分野における臨床応用は時間を要するかと思いますが、審美修復における基礎データは集まっていますので、国民の口腔機能の維持向上に貢献できるよう実用化に向けた準備を進めてまいります。