2014年12月14日掲載

「検証! 総義歯治療で最も大事なのは何か?」をテーマに

第6回JDA学術講演会開催

第6回JDA学術講演会開催

さる12月14日(日)、秋葉原UDX(東京都)において、第6回JDA学術講演会「検証! 総義歯治療で最も大事なのは何か?」(スタディグループJDA〔Japan Denture Association〕主催、阿部二郎代表)が開催された。本講演会は、「下顎総義歯吸着理論」に関する多くの著書・論文で著名な阿部二郎氏(東京都開業、東北大大学院歯学研究科臨床教授、神歯大顎咬合回復補綴医学講座客員教授)が代表を務める「JDA」による、6回目のオープン学術講演会。2009年以来、例年12月に行われている本会であるが、今回も200名の定員に対して多くの参加希望者があり、キャンセル待ちも多数という盛況ぶりであった。以下に、演題および演者を示す。

1)「『個人トレー』が最も大事です!」(小久保京子氏、エースデンタル)

本演題では、精密印象のための個人トレーには「吸着のための仕掛け」が必要であるとし、その「6つの工夫」と「3つのオプション」について、具体例が示された。

2)「『印象』が最も大事です!」(亀田行雄氏、埼玉県開業)

本演題では、術式が容易であり、かつ歯科技工士との共通認識をもった印象採得法が必要であることなどを述べた上で、下顎総義歯吸着理論から生まれた「FCBトレー」(モリタ)を用いた印象採得法が示された。

3)「『咬合』が最も大事です!」(齋藤善広氏、宮城県開業)

本演題では、顎関節の構造や咬合採得のエラーの原因などが示された。また、ゴシックアーチ採得においてアペックス、およびタッピングポイントのいずれを重視するかについては、その再現性からタッピングポイントを選択するとした。

4)「『人工歯排列』が最も大事です!」(松下 寛氏、東京都開業)

本演題では、歯槽頂間線法則が重視されてきた時代から、現在のように模型分析によるニュートラルゾーンへの人工歯排列が行われるようになった経緯について述べた上で、実際の臨床での排列基準およびその方法について示された。

5)「『重合』が最も大事です!」(岩城謙二氏、I.D.T.デンタルラボラトリー)

本演題では、各種床用レジンの重合法による精度の差について検証。メーカーが急冷が可能で生産性が高いと謳っている製品であっても、実際には加圧釜での加圧や徐冷を丁寧に行うことでより精度は高まるとし、術者自身が材料に疑問をもち、検証することの重要性を説いた。

6)「『染谷のスジ』が最も大事です!」(三宅宏之氏、宮城県開業)

本演題では、染谷成一郎氏(東京都開業)が提唱するレトロモラーパッド前縁にみられる「染谷のスジ」に関する現状での研究結果を発表。印象採得に関しては、目視できる場合には個人トレーの当該部分を避けて閉口機能印象を、また引っ張ることで目視できるようになる場合には、同じ条件に加えて当該部分にのみ術者主導の印象採得を行うとした。

7)「『レトロモラーパッド』が最も大事です!」(市川正人氏、福井県開業)

本演題では、レトロモラーパッド部の被覆度を変化させた3種の下顎総義歯を用いた実験から、同部をすべて被覆することが下顎総義歯の吸着に重要であることを示した。また、レトロモラーパッドの形態を変化させないための無圧印象の重要性や、レトロモラーパッド部の封鎖を確認するための方法などを示した。

8)「『舌のポジション』が最も大事です!」(佐藤勝史氏、山形県開業)

本演題では、開口時あるいは閉口時に舌が後退位をとる患者の存在や比率について述べ、その上で総義歯製作における対処法として、舌房の確保、骨隆起部のリリーフ、また義歯舌下部辺縁の調整などについて主に示した。

9)「『デンチャーシステム』が最も大事です!」(山崎史晃氏、富山県開業)

本演題では、咬合採得エラーの防止、および歯科医師と歯科技工士が共通認識のもとで人工歯排列を行うことの重要性を示した上で、「VASデンチャーシステム」(「QDT」2013年11月号)の有用性について述べた。

10)「世界論文からの解答」(松丸悠一氏、日大松戸歯学部兼任講師)

本演題では、EBMの概念と総義歯に関する論文について紹介。義歯の質は患者満足度に影響しないとする論文が多いこと、また義歯の成功に関しては下顎義歯の安定や適切な顎間関係が保たれている必要があることなどを示した。

11)「阿部二郎先生の解答 ―総義歯の「幹」―」(阿部氏)

本演題では、これまでの内容を踏まえた上で、満足される総義歯には「欠損部の高度な回復」「機能時の義歯の安定」「全周封鎖による吸着」「従来型の維持」「製作法のシステム化」が必要であるとした。また、松丸氏が示した「適切な顎間関係」の重要さをさらに強調。「別冊 QDT Art & Practice 阿部二郎と5人のスーパー歯科技工士が同一難症例で示す ひとつではない、噛める総義歯の姿」(2013年、小社刊)の内容を示しつつ、同じ患者の義歯でも製作する術者によって辺縁や研磨面形態、人工歯排列は異なるが、顎間関係だけは同じようになっていると述べた。そして最後に、「新しい(時代の)義歯は、企業優先の簡単化、システム化、CAD/CAM化、そして上下顎の顎間関係を適切に獲得した義歯である。その結果、完成した義歯はルーズになるだろう。そして臨床医は、早急に(これまでの)精密な義歯と、このルーズな義歯に対する対応に入ることになるであろう」と、近未来への展望を示した。

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