2022年12月11日掲載

「実は簡単ではない上顎総義歯」をテーマに

第7回 有床義歯学会学術大会が開催

第7回 有床義歯学会学術大会が開催
 さる12月11日(日)より、第7回 有床義歯学会学術大会(以下、JPDA、亀田行雄会長)が、昨年の第6回学術大会と同様にWeb配信されている(2022年12月31日まで)。前回のテーマ「治療用義歯の活かし方」に続き、今回は「実は簡単ではない上顎総義歯」をテーマに7題が並んだ。以下にそれぞれの概要を示す。

1)「舐めたらあかん! 上顎総義歯 ~上顎総義歯難症例概論~」(相澤正之氏、東京都開業)
 本演題では、義歯の難症例とは何か? という問いに対し、阿部二郎氏(東京都開業、有床義歯学会名誉会長)による定義などを引用しながら解説。また、今回の大会テーマである上顎の難症例を引き起こす条件として、フラビーガム、上顎結節の挺出、ケリーのコンビネーションシンドローム、顎堤の偏吸収、顎間関係などを列挙し、それぞれについて後に述べる演者らの紹介も行った。そして、上顎総義歯難症例の克服のためには、自分の基準となる義歯製作法を身につけること、いろいろなオプションを学び正しく活用することが重要である、とした。

2)「フラビーガムへの対処法を整理する」(北條幹武氏、東京都開業/林 宏暁氏、山形県勤務/安達隆帆氏、山形県勤務/永田一樹氏、山形県開業/山崎史晃氏、富山県開業)
 本演題では、「フラビーガムへの対処法を整理する」というテーマのもと、5名の演者がリレー登壇。それぞれ、「粘膜調整材によるフラビーガムの改善(北條氏)」、「フラビーガムへの対応を整理する~フラビーガムを起立させる印象法~(林氏)」、「フラビーガムへの対処法を整理する~フラビーガム症例における人工歯排列の注意テイン~(安達氏)」、「フラビーガムへの対処法を整理する~下顎へのアプローチ~(永田氏)」の4題が行われた後、有床義歯学会副会長を務める山崎氏が総括を行った。

3)「高度顎堤吸収を防ぐための治療戦略」(相宮秀俊氏、愛知県開業/松丸悠一氏、Matsumaru Denture Works)
 本演題では、前半に「上顎総義歯の難症例を防ぐために」と題して相宮氏が、後半に「上顎難症例のマネジメント」と題して松丸氏がそれぞれ登壇。前半では骨格的Ⅲ級症例に対して上顎をインプラントオーバーデンチャーとした症例と、総義歯ではないものの上顎の残存歯を利用したオーバーデンチャーとした2症例を軸に、骨格的Ⅲ級症例がもたらす前歯部への負担や、上顎の顎堤吸収を防ぐためのインプラントの意義などについて示された。また後半では、上顎難症例のマネジメントにはデンチャースペースの回復と力のコントロールの2点が重要であるとした上で、高度顎堤吸収に起因する下顎前突所見への注意、維持安定に必要な義歯粘膜面の確実な確保、人工歯排列位置の力学的検討、などについて詳説した。

4)「無口蓋義歯を成功させる条件と製作手技」(須藤哲也氏、歯科技工士・Defy)
 本演題では、実際に吸着している無口蓋義歯の例を動画でまず示した後、無口蓋義歯にポストダムを付与できる条件として大口蓋孔付近の骨と粘膜の状態に注目すべきであるとした。また、無口蓋義歯の適応条件として、唾液の分泌が十分、ポストダム位置が柔らかい、顎堤の高さが中程度以上、上顎結節が発達している、骨格的Ⅲ級ではない、歯槽頂上または口蓋側に機能咬頭が位置できる、リンガライズドオクルージョンに適応できる、の7点を挙げた。そのうえで、臨床例2例の製作過程や装着時の状態を示した。

5)「『人生100年時代』のインプラント治療~IODと二重冠義歯を応用して~」(神山剛史氏、埼玉県開業)
 本演題では、昨今の超高齢社会においては総義歯の難症例が今後ますます増加することや、的確な最小本数のインプラントによる義歯治療の有用性について述べた上で、症例を供覧。下顎6前歯のみ残存の70歳代女性患者に対し、ケリーのコンビネーションシンドロームに相当するという診断のもと、下顎左右大臼歯部にインプラントを用いた下顎IODを製作し、咬合支持の獲得、骨吸収の抑制、顎関節の保全を図り、ひいては上顎総義歯も安定させるという治療計画のもとで行った症例の14年経過について示した。そのうえで、適切なインプラント治療介入によって咬合支持を回復し、現在の状態から欠損の拡大を防ぐことが重要であるとした。

6)「コンビネーションシンドローム症例への対応」(遠藤義樹氏、宮城県勤務)
 本演題では、内容を(1)コンビネーションシンドロームとは、(2)解剖学的問題点へのアプローチ、(3)機能的問題点へのアプローチ、(4)臨床例、の4点に分けて順次解説。そのうえで、「コンビネーションシンドローム患者の上顎顎堤は、上顎総義歯の維持・安定に有効な上顎結節部の床下面積が広いため、前歯部顎堤粘膜の炎症の改善が図られたならば通法の印象採得で充分な義歯の維持・安定が得られる一方で、下顎の顎堤吸収は著明でありインプラントの埋入が困難である」「そこで適切な顎間関係を設定したうえで、リジッドサポートを充分に考慮した下顎義歯の設計のもと、総義歯に準じた両側性平衡咬合を確立し, 機能時の両側臼歯部の咬合支持を得る必要がある」顎間関係の設定にあたっては、 コンビネーションシンドローム患者に特徴的なカウンタークロックワイズローテーションを考慮した水平的顎間関係を付与し、管理していくことが重要である」と締めくくった。

7)「上顎無歯顎難症例におけるインプラントオーバーデンチャー」(亀田氏、埼玉県開業)
 本演題では、上顎総義歯難症例の定義について米国補綴専門医学会による無歯顎患者治療のガイドラインや日本補綴歯科学会の症例分類を基に解説した上で、それらがもつ顎間関係の問題点や下顎・上顎の歯列弓のアンバランスに対応することの必要性について解説。そのうえで、「対向関係の不調和と嘔吐反射に対し上顎IODで対応した症例」および「高度顎堤吸収と対向関係の不調和に対し下顎に2IODで対応した症例」「コンビネーションシンドローム様の対向関係に対し下顎にIARPDで対応した症例」の3症例を提示。いずれも最小限のインプラントによる咬合回復と義歯の動きの抑制により、確かな予後を提供するとともに難症例に対する最適解を模索するものとなっていた。

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