学会|2024年7月12日掲載

在首都圏歯科矯正学講座と矯正臨床医が一同に会する

東京矯正歯科学会、第83回学術大会を開催

東京矯正歯科学会、第83回学術大会を開催

 さる7月11日(木)、有楽町朝日ホール(東京都)において、第83回東京矯正歯科学会学術大会(西井 康会長)が開催された。本大会では特別講演、一般口演11題、症例展示2題、症例報告36題、企業展示が行われた。西井大会長は開会の辞で、大学の歯科矯正学講座に所属する医員にとっての初めての発表の場であることも多い本大会を開催できる喜びについて語った。西井氏でふれられた挨拶のように、一般口演では各大学の歯科矯正学講座に在籍する若い研究者を中心とした発表がなされた。

 特別講演では、西井氏が直接講演を依頼したという海部陽介氏(東大総合研究博物館教授)による「縄文人と現代人の咬合はなぜ異なるのか」が行われた。講演では、たびたび歯科の学術イベントで話題になる縄文人と弥生人(現代人)の顎顔面骨格の違いについて、海部氏の専門である人類進化学の観点から「(1)日本人の歯」「(2)進化についての歯科大生の誤解」「(3)不正咬合の人類史」の3つのテーマに分けて語られた。

 そのうち「(2)進化についての歯科大生の誤解」では、かつて人類学者の馬場悠男氏が示し有名になった「予想される未来人の顔面の図」が、縄文人から現代人までに至る、顎が細く顔が長くなってきた歴史をもってまるで「今後ますますその傾向が強くなるように進化する」との誤解をつくったことについて、人類進化学者の立場から意見を述べた。進化とは集団の遺伝子構成が変化し子孫においても繰り返されることを指すが、下顎骨幅の狭小化や長顔化は中世以降急激に起こり、また局所的に生じているところから、食生活や社会環境の変化による骨の発育不良に過ぎないと考えられること、また近年では顎骨幅の増大傾向が報告されている旨を述べた。

 また「(3)不正咬合の人類史」では、ベッグ法の開発者であるBegg PR(オーストラリアの矯正歯科医・研究者)による有名なアボリジニの歯の咬耗に関する研究についてふれ、「咬耗咬合こそが人類の正しい歯列の咬合形態であり、現代人の咬耗のない歯こそ異常である」とするBeggの論は、歯科学的には違和感があるかもしれないが、人類学的にはまったく納得できるものであるとした。縄文人の歯並びがよく、不正咬合になっていないのは歯が咬耗しているからで、不正咬合・不正歯列になっていないという点で咬耗は口腔に良い影響をもたらすといえ、こうしたBeggの論は、「正しい・正しくない」を論じる意味ではなく視点として非常に重要とした。しかしアボリジニや縄文人のような咬耗は、現代の社会生活・食生活を送る現代人には起こり得ず、縄文人の歯並びとは切り離して現代人の正常咬合や正常な歯列をとらえていく必要があり、そうした観点から、矯正歯科医が取り組む現代の臨床は非常に意味のあるものと締めくくった。

 歯科、特に歯科矯正学の常識や観念とはまったく別方向から不正咬合や不正歯列というものをとらえ直す海部氏の講演に、会場からは興味深い観点だとする感想と質問が相次いだ。

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