社会|2024年12月9日掲載
仲井雪絵氏が「マイナス1歳からはじめるむし歯予防―妊産婦と生まれてくる赤ちゃんのための口腔からの育児支援」をテーマに講演
神奈川県歯科衛生士会、第3回研修会を開催
さる12月8日(日)、神奈川県歯科保健総合センター(神奈川県)において、神奈川県歯科衛生士会、第3回研修会(打矢純子会長)が現地とWeb配信にて開催された。今回は仲井雪絵氏(静岡県立大学短期大学部歯科衛生学科教授)が講師として招聘され「マイナス1歳からはじめるむし歯予防―妊産婦と生まれてくる赤ちゃんのための口腔からの育児支援」をテーマに講演が行われた。
仲井氏は冒頭、日本において小児から中年までのう蝕は減少しているものの高齢者のう蝕は年々増加しているデータを供覧。加えて、世界の疾病負荷(疾病による影響を経済的コスト、死亡率、罹患率で数値化したもの)全291の病態の中でトップ10位に1)永久歯のう蝕、2)重度な歯周炎、3)歯の喪失――3つがランクインしていることを述べ、3歳児のう蝕罹患状況の地域格差、今後さらにう蝕増加群が増加していく状況を含めて「口のパンデミック」と表現し、う蝕のコントロールにおいても改善の伸びしろが残されていることを力説した。
次に、う蝕発生のプロセスについて「感染症」と「生活習慣病」の双方の側面から解説。特に小児のう蝕を減らすための有効的な手立てとして、前者では感染経路の遮断の観点から食具を共有しないこと、後者ではミュータンス菌(MS菌)の栄養源となるショ糖を可能な限り控えることを推奨した。
また、アンケート調査結果や実体験から社会生活を送るうえで前述したう蝕予防を実践することの困難さについてもふれ、ベストではなくともベターな対応の例としてキシリトールの活用を提案した。その後は、仲井氏が行ってきた研究を中心にキシリトールの有用性を示すさまざまなデータや論文を解説するなかで「噛むのをやめてもキシリトールの効果はキャリーオーバーする」と述べ、う蝕予防効果の持続力の高さをアピールした。また、MS菌を中心にう蝕原因菌の定着を可能な限り遅らせることが、その後のう蝕発生リスクを大きく低減させることについても言及した。
講演全体をとおして、「小児う蝕の予防は家族から、特に周産期からの母子保健」の考え方が一貫しており、一世代前からの予防(プライマリー・プライマリー・プリベンション)の重要性が述べられた。「指導を実践できなかった患者さんをけっして見捨てない」という仲井氏の患者さんに寄り添う伴走型の保健指導の大切さがうかがえた研修会となった。