2021年11月3日掲載
「みんなの知らない技工の世界」をテーマに
Shurenkai、第12回web SOUKAI 2021を開催
冒頭の挨拶で中村氏はまず、補綴治療の質に大きな影響を及ぼす歯科技工や歯科技工士に対する歯科医師の意識の低さを指摘。歯科技工士の重要性について考えること、また歯科技工士の奮闘に脚光を当てることが、歯科医療の質の向上と患者満足につながるとした。以下に、それぞれの演題の概要を示す(講演順)。
(1)「CAD/CAMの世界 機械が作ってくれるわけじゃない?」(青木隆雄氏、歯科技工士、バイオデンタル)
本演題では、歯科技工士の離職率が資格取得後5年間で80%となる現状や、職場環境の厳しさなどについて述べたうえで、そこにCAD/CAMが救いをもたらすかという導入の後に上顎右側第一大臼歯のCAD/CAMによる設計からミリングについて詳説。意識しなければ、平素は歯科医師が見る機会のない模型のスキャン工程から画面上での咬合器付着や形態のデザイン、そしてワックスミリングの様子について示した。また、ミリングによって製作された補綴装置であっても、スキャナーの精度や支台歯形態などによって誤差が生じ、決してそのまま口腔内に装着できるものではないことを強調。歯科技工士による知識と繊細な技術がCAD/CAM時代にも必須であることを訴えた。
(2)「作り方がこんなに違う! メタルとセラミックの世界」(田邊計知氏、歯科技工士、Dental Laboネオス)
本演題では、クラウン・ブリッジの製作に用いられる各種材料について概観したうえで、特にメタルセラミックス(メタルボンドとも)の製作法について解説。「歯科関係者でもMB(メタルボンド)の意味を知らない人がいる」「メタルセラミックスは、金属に陶材が焼き付けられた琺瑯(ホウロウ)と同じような構造である」といった導入を経て、分割復位式模型の製作、ワックスアップ、埋没および焼却、鋳造およびメタル調整、そして陶材の築盛までのステップを動画を交えてていねいに解説。歯科医師が思うよりもメタルセラミッククラウンの製作には手間がかかることを強調し、その手間を省いて「早い・安い」補綴装置を製作して数をこなすべき、というようなイメージを歯科技工業界がみずから植え付けてきた側面があることを指摘。それではだれも得をしないため、歯科技工士の立場としては患者個人のオーダーメイドの「人工臓器」を製作している以上、満足のいく補綴装置を提供できるように患者や歯科医師、歯科衛生士、その他歯科医院スタッフや材料メーカーとかかわっていきたいと結んだ。
(3)「意外と知らない!? 義歯の作り方」(西田昌平氏、歯科技工士、Craft)
本演題では、石膏、レジン、ワックスなど、使用される材料がすべて膨張・収縮に左右される義歯製作の工程において精度の高い義歯製作を行うことがいかに困難かという点について述べたうえで、全部床義歯、部分床義歯それぞれの製作過程を紹介。前者では治療用義歯を用いた咬座印象を受け取るところから、人工歯排列にいかに手間が必要か、また咬合調整がどれだけ重要かなどについて示し、後者ではフレームの鋳造のためのワックスアップの方法や鋳造の難しさなどについて示した。
(4)「修練医合格で得られた大きな気付き」(田端和高氏、奈良県開業)
本演題では、日本補綴歯科学会が2019年に新設した「修練医」資格を、中村氏の指導のもとで取得した田端氏が登壇。かつては「補綴診断って、わかっているようで何かよくわからないな」という意識であり、目先の課題を解決する方法だけを求める「How to 体質」だったという田端氏が、同資格認定のために提出した無歯顎症例について紹介。81歳男性患者で、10年で10個の総義歯を製作してきたがすべて破損してきたという症例に対し、適切な検査・診断と根拠をもった義歯製作によって2年間破損なく経過しているという内容を示し、なかでも補綴診断に必要な検査については、検査用の器材を収納する専用のワゴンを設ける、また用いる書類をまとめて置いておくといった取り組みについて紹介した。そのうえで、今後の治療の目標は「予定調和」にあるとし、日常臨床の疑問や悩みをトリガーにして、今まで教わった基礎知識を引き出し強固な補綴臨床の地盤をつくりたいとした。
各演題の合間には中村氏の司会のもと活発なディスカッションが繰り広げられ、Web経由で演者に寄せられた質問にも多数回答がなされていた。また、「Webデンタルショー」と題した、協賛企業による広告動画の放映も充実していた。