2021年11月7日掲載
基礎研究から臨床までを幅広く取り上げた10演題が並ぶ
日本臨床歯科学会、第6回Web学術大会を開催
1)副理事長講演「インプラント補綴による咬合のバランスおよび患者QOLの向上」(本多正明氏、大阪府開業)
本演題では、演者が本年3月に大阪歯科大学で学位を取得した標題の論文の内容について紹介。1歯または複数歯インプラント欠損補綴において咬合接触面積、咬合力、QOL向上に対するインプラント治療の有効性を評価する目的で、片側性部分欠損の患者15名(男性5名、女性10名、平均年齢64.4歳)に対して行った咬合接触面積の評価、咬合力の評価、GOHAI日本語版を用いた評価などを通じ、インプラント補綴による咬合機能の回復と咬合力の左右的なバランスが得られたこと、また単数歯欠損と複数歯欠損を比較した場合、複数歯欠損の場合でのみインプラント側の咬合接触面積の増加とGOHAIスコアの増加を認めたことから、インプラント補綴治療はとくに複数歯欠損症例において咬合機能の回復、QOLの向上に有用であることが示唆されたことなどを示した。
2)教育講演「インプラント周囲炎に対する考え方と対応 ―罹患率を減少するための治療概念と戦略―」(小濱忠一氏、福島県開業)
本演題では、『日本臨床歯科学会誌』第7巻第1号に掲載された論文「インプラント周囲炎における発症要因の検討」の内容を基に、演者らが行った7施設における共同研究から導かれたさまざまなインプラント周囲炎のリスクファクターとその傾向・対策案について提示。前歯部・臼歯部ともにセメントリテインとスクリューリテインの間で有意差はみられず、むしろスクリューの緩みや上部構造の形態の方が影響すること、また臼歯部においては中間構造体を用いてインプラント体自体への応力を分散させること、適切な埋入位置の設定を行うことや、抜歯即時埋入が可能な症例では抜歯即時埋入とする方が骨幅が確保され、ひいてはインプラント周囲炎のリスクを下げるといった多くの臨床的アドバイスを示した。
3)講演(研究)「CAD/CAM 用ポーセレンブロックに対するフッ化水素酸処理後の経過時間がエナメル質への接着強さに及ぼす影響」(大河雅之氏、東京都開業)
本演題では、『日本臨床歯科学会誌』第7巻第1号に掲載された論文「CAD/CAM 用ポーセレンブロックに対するフッ化水素酸処理後の経過時間がエナメル質への接着強さに及ぼす影響」の内容を基に講演。本研究は、フッ化水素酸処理を行うタイミングがせん断接着強さに及ぼす影響について検討したもので、被着体にはCAD/CAM用ポーセレンブロックを使用し、被着面に対して、(1)60秒間フッ化水素酸処理+5分間のエタノールによる超音波洗浄(CON)、口腔内試適後、装着直前に酸処理を行うことを想定した(2)唾液60秒間浸漬+60秒間リン酸処理+流水による水洗(PA)と(3)唾液60秒間浸漬+60秒間のフッ化水素酸処理+5分間エタノール超音波洗浄(HF)、院外歯科技工所でのフッ化水素酸処理を想定した(4)24時間前に60秒間フッ化水素酸処理+唾液60秒間浸漬+60秒間リン酸処理+流水による水洗(24HF)と(5)72時間前に60秒間フッ化水素酸処理+唾液60秒間浸漬+60秒間リン酸処理+流水による水洗(72HF)の5条件を設定した。そのうえで装着材料は光重合型レジン系装着材料を用い、牛歯エナメル質へメーカー指示の術式にて接着した。結果はせん断接着強さ(MPa)として算出し、各条件間で統計処理を行った。結果からHF(37.1MPa)と24HF(37.4MPa)はPA(22.3MPa)と72HF(23.1MPa)と比較して有意に高いせん断接着強さを示した。HF、24HFとCON(37.2MPa)間に有意な差は認められず、PA、72HF間でも同様であったことを示した。この結果から、CAD/CAM 用ポーセレンブロックに対するフッ化水素酸処理は少なくとも装着の24時間前までに行われるべきであるとした。
4)講演(研究)「インプラント周囲炎における発症要因の検討」(名取 徹氏、福岡県開業)
本演題では、2)で示した論文「インプラント周囲炎における発症要因の検討」の筆頭著者である名取氏が登壇。同論文で示された、リスクファクターとしての歯周病の既往、口腔衛生状態、メインテナンスの頻度、角化粘膜の幅、埋入部位、およびセメントリテイン/スクリューリテインの差のそれぞれがインプラント周囲炎の発症に関与する度合いについて示したうえで、同論文発表以後に得られた知見についても披露。骨質についてはTypeⅠとⅣでリスクが高いこと、インプラント体の表面性状ではマシンサーフェスのものがリスクが高いこと、抜歯後10日以内の抜歯即時埋入ではそれ以後の埋入時期にくらべてリスクが低いこと、そしてGBRを行った症例では行わなかった症例に比べてリスクが高いこと、がデータとともに示された。
5)講演(研究)「L-ラクチド・ε-カプロラクトン二層性GBRメンブレンの露出耐性に関する検討」(榊原 享氏、愛知県開業)
本演題では、『日本臨床歯科学会誌』第7巻第1号に掲載された論文「L-ラクチド・ε-カプロラクトン二層性GBRメンブレンの露出耐性に関する検討 ~初期吸収特性,バリア性に関するin vitro試験」で示した研究内容を基に講演。本研究では、本邦で初めて吸収性メンブレンとしてGBR適応の承認を取得したL-ラクチド・ε-カプロラクトン共重合体を主原料としたメンブレンであるサイトランスエラシールド(ジーシー)を使用し、オープンバリアメンブレンでの使用可能性について検証した。その結果、今回のin vitroの試験からは、8週間経過後においてもメンブレンの構造維持が確認され、バリア性が期待できる所見が得られた。これらの結果からP(LA/CL)メンブレンはオープンバリアメンブレンとしてdPTFEメンブレンと同様の臨床性能が期待できる材料と考察された。
6)講演(臨床)「包括的治療計画の重要性」(構 義徳氏、東京都開業)
本演題では、10年間におよぶ矯正治療のために、頭痛、首周りのこり、不眠、鼻閉感、パニック症候群などを主訴に紹介で来院した40歳の男性患者に対して包括的治療計画に基づき治療を行った症例を供覧。演者が重視する、治療の6 elements(Upper incisal position、Angle classification、Mandibular position、Occlusal plane angle、Vertical dimension of occlusion、Facial pattern)を基に症例を分析し、そのうえで「決まりきった数字だけで症例を判断しない」ことの重要性と治療過程を詳説した。
7)講演(臨床)「矯正治療後の機能・審美的問題を補綴修復治療により改善した一症例」(陶山新吾氏、福岡県開業)
本演題では、矯正歯科治療がすでに他院で開始されていた初診時25歳女性患者に対し、現症の分析、検査・診断を行ったうえで、必要とする部位への根面被覆術、前歯部のトゥースサイズおよび切端レベルの改善、臼歯部咬合面の形態回復などを行い、包括的な機能回復を行った症例を供覧。4つのフェーズによる治療計画やCTGの術式の図示、また効率の良い臼歯部咬合面のコンポジットレジン築盛法や前歯部へのラミネートベニアとセラミッククラウンの同時装着など、臨床的なテクニックにも見どころの多い講演とした。
8)講演(臨床)「Minimal Intervention に寄与している歯質接着システム進化の変遷」(宮地秀彦氏、京都府開業)
本演題では「技術紹介」という位置づけで、過去から現在まで8世代にわたる歯質接着システムについて解説。現在用いられているものは第4世代の3ステップエッチ&リンスの製品であることを示したうえで、それ以降の2ステップシステム(セルフエッチングプライマーシステム)や1ステップシステム(セルフエッチアドヒーシブ)、さらに最新のセルフエッチユニバーサルアドヒーシブについて、それぞれの原理やMI臨床への寄与について示した。そのうえで、今後の第9世代に求められる要素は簡便性、生体活性、耐久性、そして汎用性であるとした。
9)教育講演「欠損部に対する包括的治療戦略」(米澤大地氏、兵庫県開業)
本演題では、「先天性欠如歯のある矯正治療患者や、多数の予後不良の補綴歯や過去の治療によって生じた欠損部を含む患者に対しては、矯正学的診断単独で便宜抜去の部位を決定することはできない」(抄録より)との立場から、切歯欠損、小臼歯欠損、大臼歯欠損に対する治療戦略について詳説。それぞれに対し、インプラントで対応する場合と矯正歯科治療で対応する場合を想定し、適切な結果へと導くためのヒントを多数示した。また、臨床例も4例示し、いずれの場合にも審美的改善を立案する矯正学的診断より始め、臼歯関係を決定し、最終的には犬歯関係Ⅰ級を確立し、アンテリアカップリングを付与する方針が貫かれていた。
10)特別講演「心と体と地球に優しい歯科医療を目指して」(添島正和氏、熊本県開業)
本演題では、演者のこれまでの学びの歴史を振り返ったうえで、歯科医師の立場から全身の健康に取り組むことの大切さについて強調。「歯周・補綴・インプラントを主体として包括的な処置を日常的に行っているわれわれ日本臨床歯科学会としてもミクロの審美・インプラント・歯周治療だけにとどまらず、全会員が全身の健康すなわち真の意味での審美を意識した禁煙サポートに取り組む必要がある」(抄録より)との立場から、禁煙の重要性と全身の血管への影響、またプラークの除去による各種全身疾患の改善の2点を軸に、数多くの資料を供覧しながら示した。
それぞれの講演の合間には、配信会場に集まった同学会各支部の支部長や理事らによるディスカッション、そして視聴者からの質問への回答などが活発に行われていた。また、示説発表(ポスター展示)も12演題がオンラインにて掲示されていた。