2021年11月28日掲載
「⻭周病、糖尿病、認知症~その関連性を探る~」をテーマに
日本アンチエイジング歯科学会、Webセミナーを開催
松尾氏の開会挨拶のあと、まず長谷川氏が「医科歯科連携・経済なき道徳は寝言」の題で講演。医科歯科連携の実現には、理想だけでなく、理想を叶えるために必要な利益――経済も念頭に置くべきだという考えのもと、実現のノウハウやマインドセットを自身の体験を交えて解説した。
神経内科医である氏は、かねてより口腔ケアが認知症患者に与える影響に着目しており、院内に歯科用ユニットを導入し、専属の歯科衛生士による口腔ケアを実施。令和2年6月には敷地内に歯科医院を誘致し、さらに連携を強化している。内科医の観点から、歯科との連携を要するケースとしては、残根処理、抗血小板療法、糖尿病治療、骨粗しょう症治療、認知症治療、在宅医療が挙げられた。また、医科から患者紹介をしたい歯科医院の条件として、(1)ホームページで医院の情報を公開している、(2)治療をして終わりではなく、その後のメインテナンスに力を入れている、(3)歯科衛生士がいる、そして(4)「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」(か強診)の認定を受けていることが求められると述べた。(1)は、医院の設備や体制がわからないことには紹介ができない、(2)~(4)は、国の方針が「予防と在宅」にあることを第一の理由としていた。
続いて、天野氏が「口からの全身疾患を防ぐには 患者も主治医に」の題で講演。歯科医療者がいくら手を尽くしても、患者の協力が得られないことには治療や予防は奏功しない。そこで、患者にも‟主治医”のひとりとなってもらうために必要な最新の病因論を平易に解説した。バイオフィルムの構造から、マイクロバイアルシフトによる病原性の変化にはじまり、いま話題のcnm陽性ミュータンス菌や口腸連関のメカニズムについても述べた。cnm陽性ミュータンス菌とは、傷ついた脳血管のコラーゲンに付着し、血小板の止血作用を抑制するS.mutansの一種で、微小脳出血や脳出血を引き起こすとされる。口腸連関とは、「口腔細菌が腸まで行き、腸内細菌叢をかく乱する」という考えで、腸内細菌叢が乱されると、腸の防御反応が低下し、慢性炎症や全身疾患につながるとされている。ヒトの糞便から口腔細菌が続々と検出されていることから、現在注目されている新たなメカニズムである。そのほか、氏の研究をもとに歯周ポケットの内部を可視化したアニメーションムービー「Dental Adventure」も披露された。
次に、西田氏が「全身と口腔がつながる時代の到来 Oral Systemic Link」の題で講演。新型コロナ予防から糖尿病予防、認知症予防に対し、歯科がもつ可能性を最新の研究を交えて解説した。糖尿病の診断にはいくつかの基準がある。たとえば空腹時血糖なら、126mg/dL以上だと糖尿病と診断される。翻って「125以下なら問題ない」と患者は考えがちだが、氏はこれに警鐘を鳴らす。そもそも126mg/dLという数値は、これを超えると失明に至る「糖尿病網膜症」が急増する域値である。したがって、100や120という数値は、正常と病気のあいだのグレーゾーンとなる。氏は、これを歯科における「正常~歯肉炎~歯周炎」の関係になぞらえ、グレーゾーンである歯肉炎の段階で歯科が介入しているように、糖尿病の治療もグレーゾーンでの介入が重要であると述べた。講演の最後には、Cortexyme社(米国)が臨床試験を進めている「ジンジパイン阻害薬」についての最新動向を報告。同社の新薬は、直近の試験結果では米国FDAから製品化の認可は下りなかったが、臨床試験ではアルツハイマー型認知症の進行抑制に一定の効果を示しているという。
その後、同学会常任理事の石河信高氏と坂本紗有見氏(ともに東京都開業)の司会のもとシンポジウムが開かれ、約1時間にわたり質疑応答などが行われた。