社会|2025年2月18日掲載
全国から約160名が参集、オンラインでも50名あまりが視聴
(一社)日本歯科技工所協会東支部学術講演会、「技工の未来 新世代の挑戦!」を開催
さる2月15日(土)、AP市ヶ谷(東京都)において、一般社団法人日本歯科技工所協会 東支部学術講演会「技工の未来 新世代の挑戦!」(日本歯科技工所協会東支部主催、石澤亮一支部長)が開催された。本講演会は、人材不足や急速なデジタル化の進展といった課題を抱える歯科技工業界において、次世代を担う気鋭歯科技工士が現在どのようなトピックに注目しているかを示すことで、歯科技工業界の今後を占うとともに気鋭たちの情熱を伝えることが目的。会場には土曜日午後からの開催にもかかわらず全国から約160名が参集し、オンラインでも50名あまりが視聴する盛会となっていた。以下に、演題ならびに演者を示す(演者はすべて歯科技工士)。
1)「高強度フルカラー造形が可能な3Dプリントシステムの臨床展開」小池昌平氏(コアデンタルラボ横浜)
本演題では、演者が所属するコアデンタルラボ横浜が株式会社リコーとともに開発を進め、薬機認可も得ているインクジェット方式による高強度フルカラー3Dプリントシステムの現状と展望について解説。「emiora」(エミオラ)というブランドネームのもとでクラウンおよびデンチャーの製作が可能になることを示し、曲げ強度はCAD/CAM冠用材料(Ⅳ)と同等であること、また実際に製作・装着された上顎4前歯のフルクラウンの症例や総義歯の製作例が示された。
2)「デジタル技術が革新する歯科技工(遠隔技工システムの実現と歯科医療の未来)」松田亮介氏(医科歯科技研社)
本演題では、デジタル技術の恩恵として「独自のワークフロー(スマート法)」「兵庫県神戸市と愛媛県松山市の2拠点での連携」「AICADの活用」の3点について解説。冒頭の「スマート法」は、同社で実践しているデジタル模型製作の方法。模型を分割せず、マージン部を調整したうえでそのまま口腔内スキャナ(IOS)でスキャンして作業に入るもの。これにより、模型製作の概念を覆しつつ、デジタルデータ下でも品質が担保できるとした。
3)「歯科用デザインソフトに関する一考察」伊藤健汰氏(ベルザ)
本演題では、演者の職場のCADソフトウェアが2024年秋に大幅にバージョンアップされたことに関し、メーカー名は伏せつつ解説。新たなソフトウェアによる生産性向上の例として、デジタルフルデンチャーやデジタルノンメタルクラスプデンチャーの製作について示し、最新のソフトウェアにアップデートし続けることによる品目の増加、そして時短といったメリットについて示した。
4)「自社におけるIOSケースへの取り組み」栁内大樹氏(ケイ・ワークス)
本演題では、IOSデータにおける歯科技工において「バイトの調整量が多くなった」「インプラント症例のコンタクト不良が多くなった」という問題点への対応について解説。前者に対してはシリコーンバイトをスキャンしてCAD上でマッチングする方法などが、また後者に対してはIOSのデータと歯科技工所で採得したスキャンボディの形態データ、およびアバットメントの形態データをマッチングさせる方法が示された。
5)「デジタル技工、実際はどうなんだろう?」杉江良太氏(NOVA DENTAL LABORATORY)
本演題では、近年歯科技工のデジタル化が進むなかで特に問題となる精度について、6種のIOSおよびラボ用スキャナを用いて同一の金型模型をスキャンしたデータ、および4種の3Dプリンターを用いて同一のデータをプリントしたものを用いて考察。あくまでも同一の歯科技工所に勤務する複数の歯科技工士の感覚ではあるが、スキャナとプリンターの組み合わせによってさまざまな適合の差が生じたことを示し、デジタル技工を構成する要素の中で1つでも精度が低いと全体の質が低下してしまうとした。
6)「AIを用いた歯科技工の実際」上土井翔平氏(和田精密歯研社)
本演題では、デジタル時代には仕事を「Job(職業)」「Work(仕事)」「Task(作業)」の3つに分けて考えることが必要になることを示したうえで、TaskにAIがどのようにかかわるかについて解説。デジタルプロセス社と和田精密歯研社が開発しているソフトウェア「AICAD」の活用について、和田精密歯研社が多数擁している拠点におけるアンケート調査を基に示した。
7)「金属積層造形による義歯製作の実際」鈴木啓太氏(横浜トラスト歯科技工研究所)
本演題では、金属積層造形の基礎知識、日本国内で認可されている金属積層造形装置の概要、およびコバルトクロム粉末などについて概説。その後、金属積層造形に挑戦する理由として高品質なメタルフレームの追求と事業モデルの再構築の2点を挙げてそれぞれ解説。また、金属積層造形の工程および後処理としての熱処理についても詳説した。
8)「インプラントライブラリーを使用した上部構造製作の問題点と対策」小川 淳氏(シンワ歯研)
本演題では、IOSのデータを基にしたインプラント技工のワークフローにおける問題点として、スキャンボディの問題、3Dプリンティング模型およびチタンベースの問題を挙げたうえで、演者が提唱する「コンバートテクニック」を提示。本法は、歯科技工所で製作した「スキャンボディコンバーター」を介することでスキャン状態が不良なスキャンボディをデータ上で他社のスキャンボディやアバットメントなどに置換し、精度の向上につなげるもの。スキャンボディはCADソフトウェアのライブラリーを優先させるよりも、よりよくスキャンされたスキャンボディからコンバートすることが重要であること、また3Dプリンティング模型はインプラント技工に求められる精度には達しないため、なるべく使用しないことなどについて示した。
9)「デジタルデンチャーの臨床応用とその実際」今田裕也氏(協和デンタルラボラトリー新松戸)
本演題では、デジタル技術の導入による効率、精度の向上、およびデジタル技術を活用したデンチャーの設計と製作の2点をテーマに解説。特にデジタルを用いたパーシャルデンチャーの製作について述べられ、IOSによるスキャンでは中間欠損には対応できるが遊離端欠損への対応は困難であること、また3Shape社のソフトウェアを使用したフレームワークの設計手順や臨床例などについて詳説された。
なお、講演終了後に行われた懇親会には若手・ベテランのいずれもが多数参加し、情報交換が盛んに行われていた。