2021年5月号掲載
口腔細菌と全身疾患の関連を追究する研究者
産学連携の重要性が叫ばれて久しい。2021年1月、その実態を把握する文部科学省の調査結果が公表され、全国の大学や専門学校などが2019年度に民間企業から受け入れた研究資金は、過去最高の約1,185億円となった。企業と大学の研究者が連携する「共同研究講座」が増え、大阪大学は東京大学に次ぐ第2位となっている。その1つに仲野和彦氏(大阪大学小児歯科学教室)が立ち上げた「口腔全身連関学共同研究講座」がある。本欄では、氏にその開設の経緯と同講座での研究についてうかがった。
仲野:大阪大学小児歯科学教室では、2020年11月にウエルテック社と連携し、「口腔全身連関学共同研究講座」(以下、当講座)を設置しました。
ウエルテック社とは2016年からかかわらせていただいており、数ある口腔ケア製品の中で、希釈タイプの洗口液「コンクールF」の適正使用濃度での予防効果の有効性について検証すべく研究に取り組み、その研究成果が『Journal of Oral Science』の2020年3月に掲載されました1)。
本研究結果から、低濃度のコンクールFがP. gingivalis およびS. mutans の増殖能とバイオフィルム形成能を抑制することが明らかになり、適正使用時の濃度によるコンクールFを用いた洗口は、歯周病およびう蝕の予防に有効であると考えられます。
私が担当する小児歯科外来には、年間約13,000名の患者さんが受診されます。コンクールFはアルコールの刺激を感じにくく、小児や障がい者、妊産婦にも安心して使用しています。最近は、コロナ禍でエアロゾルの影響も少なくないので、新たな標準予防策としてエアロゾル発生処置前に使用しています。
当講座では現在、「糖尿病患者における薬用マウスウオッシュを用いた洗口による歯周病原性細菌種と糖尿病マーカーの変化に関する検討」を掲げ、糖尿病クリニックにて臨床研究を開始しています。糖尿病の患者さんにコンクールFを習慣化してもらい、歯周病原性細菌種の変化やHbA1c 値の変化についてデータを解析し、糖尿病マーカーに改善傾向が見られるかを調べるという内容です。当研究は予備的な検証をもとにスタートしました。その検証では、患者さんの中にこれまで糖尿病の数値が改善しなかった人に改善が見られ、口腔ケアへのモチベーションが向上しました。改善の傾向として、糖尿病歴が短い患者さんへの効果が高いことが示唆されたので、現在は大阪府内の糖尿病クリニックに協力していただき、大規模調査を行っています。
引き続き、ウエルテック社と連携し、長期的な視点を共有して課題を解決すべく、今後は心疾患や脳血管疾患などの全身疾患への口腔清掃の効果についても調べていきたいと考えています。