2024年10月号掲載
新理事長に就任した日本老年歯科医学会の「顔」
※本記事は、「新聞クイント 2024年10月号」より抜粋して掲載。
「機能」の側面から老年歯科医学の気運向上・人材育成に努めたい
超高齢社会のわが国において、健康寿命の延伸は国の重要政策として位置づけられている。歯科界は、口腔の健康から全身の健康への貢献を掲げ、2016年には8020達成率は50%に達し、近年では「口腔機能の維持・獲得」に対する機運が高まってきた。本欄では、本年6月より一般社団法人日本老年歯科医学会理事長に就任した平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科部長)に任期中に成し遂げたいことをうかがった。
平野:日本は、2007年に超高齢社会に突入しましたが、その20年以上前より世界に先駆けて超高齢社会を迎えることが予測されていました。そこで、1986年に発足した団体が一般社団法人日本老年歯科医学会(以下、本会)の前身である日本老年歯科医学研究会です。そして、1990年より学会に移行され、現在の名称になりました。本会は、歯科系大学、病院歯科、地域歯科職能団体の所属割合がそれぞれ約1/3ずつ、約4,300名の学会員を擁する組織であり、バランスのとれた構成比になっているのが特徴です。学術的な見解のみでなく、病院歯科や地域歯科保健の実態もふまえた多方面の視点から意見交換が行えるのは、本会の大きな強みだと思います。
また、老年学は、医科や看護、介護、社会的側面も含め多岐にわたる領域を横断する学術分野です。そのなかで、本会は7つの連合団体から組織されている一般社団法人日本老年学会内の分化会に位置づけられています。そういった関係性から、隔年で7つの関連学会合同での学術総会とそれぞれ単独での学術大会を交互に開催し、横断的視点で老年学を捉えるユニークな取り組みも独自の特徴といえるでしょう。
私は、歯科医学の切り口から老年学の一翼を担うにあたり①老年歯科医学のさらなる醸成、②高齢期歯科医療における課題への対応、③①②を担う人材育成――3つの柱を軸として、特に「機能」の面への追及に注視したいと考えています。
そこで、誕生から発達→維持→老化のプロセスを俯瞰して老年学を捉え、さらなる気運向上を図る所存です。2018年から保険導入された口腔機能低下症を例に挙げると、適応年齢が65歳以上から50歳以上に引き下げられ、壮年期から口腔機能管理の必要性が認められたなかで、早期の段階からフレイル予防を行うには小児期の成長・発育からシームレスに考える重要性を感じています。
そして老年期は、在宅や訪問診療をはじめ患者さんの生活場に赴き、医療提供が必要とされる時期でもあります。高齢者の抱える社会的な課題や生活背景、医学的問題の可視化についても取り組む所存です。
もはや高齢者に対する歯科医療の基礎知識はだれもが必要とされているといっても過言ではないでしょう。本会は最先端の知見の追及と並行して、これから基礎を学ぶ学会員に対する研修制度や学問体系の整備にも力を入れたいと考えています。