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2020年8月号掲載

災害時の歯科保健医療の標準化を目指す

災害の教訓を生かすための仕組みづくりが必要

 令和2年7月豪雨が発生し、すでに被災地では災害対策本部が設置されているなか、今回は新型コロナウイルス感染症の影響に配慮し、県外からの支援については慎重な対応が求められている。本欄では、災害時の歯科保健医療体制ならびに支援のあり方について、中久木康一氏(東京医科歯科大学大学院助教)にお話をうかがった。

中久木:災害時の歯科保健医療の役割として、医療と保健・啓発の2つに分類することができます。平時より提供している機能のうち必要なものを継続するとともに、新たなニーズに対する個別的ならびに集団的な対応やアプローチによって、地域の歯科保健医療を維持することが求められます。

 災害時に歯科が守るべき機能として「食べる」ための口腔機能があります。特に、誤嚥性肺炎をはじめとする災害関連疾病の予防には、要介護高齢者や障がい者・有病者に対する口腔衛生管理や口腔機能管理が重要となります。現場としては、普段から施設や在宅などにおいて訪問活動などされている歯科衛生士の活躍や、「食べる」機能を維持するための多職種と多組織が連携することが求められます。

 地域への支援(公助)は、災害対策基本法あるいは災害救助法に基づき国や地方自治体がマネジメントして行われます。今回の豪雨のような自然災害時には、自治体と歯科医師会などで締結している救護協定に基づいた支援が行われます。一方、被災された歯科医師や歯科衛生士がみずから避難所に歯ブラシや洗口液などの口腔ケア製品を配付したり、歯科保健活動を行ったりする地域や身近な人同士の取り組みや助け合い(共助)は、個別に対応されることもあります。

 災害時の歯科保健医療は、災害歯科コーディネーターが支援チームをまとめることが好ましいわけですが、歯科の行政職は少なく、これらの役割も地域の歯科医師会や歯科衛生士会などで担当することがありますので、日本歯科医師会をはじめ各関係団体において災害歯科コーディネーターを養成するための研修会が開催されています。最近は全国各地で大規模災害が頻発している状況であり、災害支援にかかわる人材養成は急務といえます。

 災害直後のことは振り返ることはできますが、次の災害に備えてどのように教訓を生かすかがとても重要です。しかし、普段から実践していないことは災害時にできるわけがありませんし、災害対策とは災害時に初めてスイッチを入れて機能するような特別なものではなく、普段から行っていることの延長でしかありません。そのためには、継続的かつ地域横断的な観点から協調しあうための規格化された情報共有が大切であり、人に依存するのではなく仕組み(システム)として考える必要があります。東日本大震災以降、災害時歯科保健医療における口腔アセスメント票の標準化や活用などに取り組んでいますが、今後は歯科におけるBCP(事業継続計画)の策定を含めた体制づくりが求められます。