学会|2025年2月28日掲載

「口腔がん患者のQOL― 今、やるべき治療、進めるべき研究 ―」をテーマに

第43回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会開催

第43回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会開催

 さる2月27日(木)、28日(金)の両日、一橋大学一橋講堂(東京都)において、第43回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会(片倉 朗大会長、太田嘉英理事長)が開催された。「口腔がん患者のQOL ―今、やるべき治療、進めるべき研究―」をテーマに、多数の歯科医師・歯科衛生士らが参加し、盛況となった。

 初日は、シンポジウム「今、やるべき口腔がんの外科療法(再建術を含む)」として、座長の横尾 聡氏(群馬大学大学院医学系研究科口腔顎顔面外科学講座・形成外科学講座)、鵜澤成一氏(大阪大学大学院歯学研究科口腔科学専攻顎口腔病因病態制御学講座顎口腔腫瘍学)のもと、3名のシンポジストが登壇した。

 まずは座長の横尾氏より「Introduction ―シンポジウムをはじめるにあたって―」として、口腔がん治療にあたって前提となる医師と歯科医師が治療を行う法的根拠や関連法規、これまでの重要判例などの概略を解説した。続いて以下の3講演が行われた。

 「口腔扁平上皮癌に対する縮小手術と低侵襲の追求」と題し、上田倫弘氏(独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター口腔腫瘍外科)が講演を行った。口腔や頭頸部のがん治療は、低侵襲の追求と化学療法の進歩で、術前の化学療法でがんを十分に小さくしたうえでの手術が可能となり、整容面も考慮し切除範囲を目立たなくすることが可能になったと述べた。また、判断が難しい予防的な郭清術を早期に行う場合の工夫や判断のポイントを解説した。

 次に「口腔癌T4b症例に対する手術」として、白尾浩太郎氏 (国立病院機構大阪医療センター口腔外科)が講演した。口腔癌T4b症例は治療が難しいことが多いが必ずしも手術不適応とは限らず、各施設の取り決めに則り、十分に治療選択にあたっての説明や写真などを患者に提示して、正確にイメージしたうえでの治療を心がけることが望ましいと語った。また、実際の手術動画を供覧し、一連の流れと手技のコツを具体的に解説した。

 続いて「義歯と皮弁と下顎再建」と題し、去川俊二氏(医師、埼玉医科大学国際医療センター形成外科)が講演した。顎顔面外科手術は「顔」という患者の社会生活の復帰に重要なパーツにかかわる治療であって、機能的な回復は当然のこと、いわゆる「骨美人」となってはならないと前置きし、いくら骨だけをよく治しても義歯が入らない場合もあり、骨をどうつくるかよりも、患者にとって治療の最終目標は何が適切かを見極め、治療はそのために行うべきと強調した。また、その際にポイントとなるのは、(1)タイミング(時期)、(2)骨の形、(3)軟組織の3つであるとした。

 セッションの最後に座長の横尾氏が再び登壇し、「もうやってはいけない機能と美容に配慮しない口腔癌手術」と題して締めくくりの講演を行った。がんだけ切除できればよいとする時代もあったが、長期生存が可能な時代となり、がんを手術で完全に取りきるのは当然のこと、患者のQOL向上のため、(1)術後機能、(2)再建、(3)整容性の3つを達成すべきであると呼びかけた。

 シンポジウム後の質疑応答とディスカッションでは、座長の横尾氏からも講演内容について各シンポジストに問いかけがあり、活発なディスカッションが交わされた。

 続いて学術セミナーとして2講演が行われた。学術セミナー1「実践!患者に寄り添う口腔癌薬物療法 ~今、やるべき治療を考える~」では、伊原木聰一郎氏(岡山大学学術研究院医歯薬学域口腔顎顔面外科学分野)を座長に、上田氏が「口腔癌における導入化学療法~PCE療法と今後の展望~」を講演し、本間義崇氏(医師、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科)が「頭頸部癌薬物療法Update~シークエンス治療とインフォームドコンセント~」を講演した。

 また、別会場では学術セミナー2として太田嘉英氏(東海大学医学部専門診療学系口腔外科学領域)を座長に「これからの口腔がん医療:予防、治療、QOL、口腔健康管理/栄養管理」と題し、栗田 浩氏(信州大学医学部歯科口腔外科)が口腔がんの治療の歴史と今後の展望を語った。

 その他のプログラムには、口腔腫瘍の研究と治療の歴史はもちろんのこと、技術の進歩によるアップデートが理解できるセッションや、現在企業と大学で進められる注目の新技術の研究の現状や、先進技術を用いた治療について盛り込まれ、テーマのとおり口腔腫瘍の治療にまつわる患者のQOLをあげるための研究と臨床の現在がわかる学術集会となった。

 なお、次回の第44回大会は、きたる2026年1月22日(木)、23日(金)の両日、ライトキューブ宇都宮(栃木県)において、野口忠秀氏(自治医科大学医学部歯科口腔外科学講座)大会長のもと、開催予定である。

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