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2021年10月号掲載

AIを用いた言語ツールの開発を目指す研究者

口腔がんで失った「ことば」をAI技術を使って取り戻したい

 資金調達の手法として注目されているクラウドファンディング。大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学教室が、AI(人工知能)を用いた新規言語治療法の開発研究費用をクラウドファンディング(寄付型)で募っている(9月1日から10月29日まで)。本欄では、本研究責任者である野原幹司氏にそのプロジェクトにかける想いをうかがった。

野原:当教室の外来では、年間約50例の口腔がん術後患者さんの後遺症のリハビリを専門とした外来を開設しています。近年注目を集めている口腔がんは、がん全体の中では1%ほどにすぎず、それほど患者数は多くありません。しかし、手術によって舌や歯肉を切除するため、どんなにリハビリを頑張っても「ことば(話す機能)」に、後遺症が残ってしまうことが多々あります。「命は助かったけど、こんなに『ことば』が通じないとは……」と戸惑いの言葉を口にされる患者さんのことばに、「回復した」と思っていた私は相当ショックを受けました。患者さんにとってはまったく不十分な「回復」だったのです。できる限りの治療やリハビリを行うのですが、どうしても「医療の限界」を感じざるを得ませんでした。私たちは、医療の限界を言い訳にするのではなく、さらなる治療方法があるのではないかと臨床と研究を続けながら試行錯誤する日々でした。

 そこで当教室が着目したのが、ディープラーニング(深層学習)を用いたAIによる音声認識です。口腔がんの患者さんの音声は、初対面の人よりも日常での会話頻度が多い人の方が「聞き慣れて」いるため、高い精度で聴取されることが知られています。この会話頻度の経験をAIに学習させて、AIの音声認識の精度を最大限に上げ、その認識された音声をアウトプットできるツールができれば、口腔がん術後の患者さんもスムースにコミュニケーションを取ることが可能になります。

 まず1つめのステップとして①AIの音声認識の精度を最大限に上げるアルゴリズムの確立、2つめのステップとして②認識された音声をスムースに、できるだけタイムラグなくテキストや人工音声でアウトプットする方法の確立、3つめのステップとして③認識できた音声をアウトプットできるようなツール・アプリの開発――の3つを目指します。

 これまでの言語治療は、言語治療室にて言語聴覚士と舌の動かし方や話し方を繰り返し練習するという方法しかありませんでした。しかし、今回のプロジェクトが実現すれば、PCやスマートフォン(AI)に向かって音声を録音すればするほど、AIの音声認識の精度は上がり、コミュニケーション能力の改善が得られます。「AIに自分の音声を学習させる」ということが、新たなリハビリの選択肢の1つになる可能性を秘めています。

 ぜひ本研究にご賛同いただける皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
(詳細は右記のURLをご参照ください)https://readyfor.jp/projects/handai-kotoba