関連キーワード

2021年7月号掲載

生涯自分の歯で食べる社会を目指して

 近年、口腔と全身との関係を明らかにする研究が多く遂行されてきています。口腔健康管理が誤嚥性肺炎や熱発を抑制するという知見は、国民にも周知されてきました。日本は少子高齢化に加え新興感染症との闘いも同時進行となっていますが、口は感染の入口にもなり得る場所であり、これまで以上に口腔健康管理の重要性を啓発する機会になっていると思います。

 日本歯科総合研究機構では、診療情報のビッグデータであるNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を数年前から分析してきました。このたび、歯数が少ない者、欠損が多い者ほどアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが明らかとなりました。

 これまで、国内外の数千名を対象とした研究で歯数とアルツハイマー型認知症の関係は知られていましたが、今回、日本人の400万人以上のビッグデータで初めてその関係が確認されたということはたいへん意義があります。歯科医療機関で診療をされている先生方の日々の保険診療の記録をもとにしたデータにおいて、現在歯数は全身の健康を映す鏡となり、歯を残すことの意義がより明確に示されたことになるからです。

 自分の歯が重要であるという国民の意識は年々高くなっているものの、社会状況の変化や世代間格差などの問題もあり、個人の努力を支える環境を整えることも求められています。また、すべての人が平等に医療を受けられる国として、この大切な国民皆保険制度を今後も維持・継承していくことが重要です。