2022年3月号掲載
歯科技工士としての価値を発信し続ける
歯科技工士と歯科衛生士のダブルライセンスをもつ西村好美氏(有限会社デンタルクリエーションアート会長)は、歯科衛生士学校での約10年間にわたる講師経験をふまえたうえで、「デジタル全盛の時代だからこそ歯科技工士としてのアナログの価値が見直される」と語る。歯科衛生士の視点から歯科技工を俯瞰する氏が若い歯科技工士に伝えたい歯科技工のあり方とは――。
西村:超高齢社会の日本において全身の健康と口腔の健康の関連性が注目されるなか、2009年に歯科衛生士資格を取得後に歯科技工士と歯科衛生士の両方の視点から予防やメインテナンスに対する意識が変わったことはまぎれもない事実です。現在では、私が担当した約30年の症例経過やさまざまな経験から、補綴装置装着後に長期的な予後を維持するという意味において、メインテナンスやセルフケアによる予防の重要性を感じています。
より良い補綴治療を行い、長期的な予後を保つためには、やはり歯科医師・歯科技工士・歯科衛生士がチームとして連携することが不可欠です。補綴装置のマージンの適合はもとより、咬合や清掃性についても考慮したケアしやすい補綴装置の形態にこだわることは、患者さんにかかわる歯科技工士として大切な視点だと考えます。補綴装置を装着した後の患者さんの日々の生活で10年、20年と審美性だけではなく適切に機能する補綴装置を製作するためには、予防の視点は欠かすことはできません。
また、補綴装置の装着後の永続性を考えた場合、加齢にともなう咬合の変化を見ていくことが大切です。近年のデジタル化の進展によって、上下顎での咬合力の変化や各部分における咬合状態の変化など、数値や映像で可視化できるようになることで、補綴治療はさらに進化していくでしょう。その時、歯科技工士としてどのような役割を果たすことができるでしょうか。
歯科技工士不足が叫ばれて久しいですが、CAD/CAMシステムをはじめとするデジタルの普及によって小規模歯科技工所と大規模歯科技工所の二極化はますます進むでしょうし、この流れを止めることはできません。小規模歯科技工所であっても歯科医師や患者さんと密接なコミュニケーションをとりながら、デジタル技術を活用してオーダーメイドで製作する補綴装置を提供し続けるか、あるいは大規模歯科技工所に勤務してシフト制で歯科技工業務を担うか、歯科技工士の働き方や考え方も人それぞれ大きく変化してきています。
そのような状況のなか、どれだけデジタル化が加速しても補綴装置のデザインや最終チェックは、歯科技工士である“人”が行いますのでより専門性の確立が求められます。デジタル時代だからこそ歯科技工士としてのアナログの価値が再評価されるはずです。ぜひとも次代を担う歯科技工士の皆さんは、専門性を高め人間でしかできない新しい価値を生み出す「創造力」を発揮してほしいと思います。