関連キーワード

2023年10月号掲載

「聴く力」の重要性を発信する

「聴く力」を高め、輝く人・モノ・サービスを創り出したい

 「新聞クイントONLINE」で好評連載中の菊岡正芳氏(合同会社Kiku塾代表)は、医療・製薬業界の経験も長く、数多くのリーダーの人材育成に携わってきたなかで「リーダーの約9割が聴く力でその問題のほとんどを解決できます。歯科医院の院長も同様です」と語る。本欄ではプロのコーチとして活動している菊岡氏に、リーダーに求められる「聴く力」の重要性についてうかがった。

菊岡:私は、大手製薬会社のマーケティング部門、その後プロダクトマーケティング全体のヘッドとして活動していました。当時は、部下の作成した資料の出来ばえの不足や、筋がとおっていないところにすぐに気づき、メンバーが苦労して作成した資料を秒殺していました。そのような行動や言葉だけでなく、表情・態度にも厳しさが出ていたと思います。

 ある時、営業所長経験のある部下に大きなプロジェクトのマネジメントを任せました。マネジメントの経験はありませんでしたが、営業所長経験者なら自己学習で乗り越えるだろうと思っていたもののいっこうに進みません。人は初めてやることに対して抵抗が大きく、ていねいに教えなければ進まないということを実感し、この責任はその人ではなく、ていねいに教えない私にあったのです。そして、菊岡という「きく=聞く・聴く」という言葉が名前に入っているにもかかわらず、教育研修の部長から「あなたは“聞かない岡さん”ですね」と指摘されたことがターニングポイントになりました。

 その後、プロコーチとの出会いで、メンバーのやる気を高める部下の自発的行動量を増やすことに大きく転換しました。その時に心がけた毎日の小さな行動は「人の美点を見つける」「周囲に感謝の気持ちを言葉で表す」「ありのままを承認する」の3つでした。毎日、この3つができたかどうかをコーチと確認し、さらに「人と対話する」を心がけました。

 実は、「聴く力」を鍛えることは、ほとんど行われていません。小学生時代からみんなの前で話すことは求められても、聞くことで求められることは単に静かにしたり、話した人の内容を要約したりすることです。積極的傾聴ともいわれる「聴く力」は、練習の土俵に上がることもないのです。

 歯科医院の多くは小規模ですので、院長先生が一人ひとりを承認・尊重してお互いが信頼感あふれる職場をつくっていくためには、相互理解があったほうが歯科医院の総合力が高まります。さまざまな環境で育ち、個性をもつ歯科医院のスタッフの思いやりと関心をつくり出すには、相手のことをよく知る「聴く力」がたいへん役立ちますので、ぜひ実践してみてください。

 最後に、リーダーとしての多くの失敗からの学び、私を変化させてくれたコーチの存在、かかわってくれた人々からの学び、また私のすばらしいコーチである家族の存在があります。これからも「聴く力」を高め、輝く人・モノ・サービスを創り出したいと考えています。