2021年12月号掲載
次世代の歯科医師を養成する教育者
1994年に厚生省(現・厚生労働省)に入省後、27年間、行政の中で歯科医療政策にかかわり、つねに歯科界を俯瞰してきた田口円裕氏。歯科医療の果たすべき役割が注目を集めるなか、本年10月より東京歯科大学歯科医療政策学教授としてキャリアをスタートさせた氏が学生たちに伝えたい考え方やメッセージとは――。
田口:長年にわたり、行政職として多くの歯科保健医療の政策決定に関与し、さらには医療職に対する社会の目が厳しいことを常日頃から意識してきました。そのようななかで感じてきたことは、歯科医師の先生方が、歯科分野のことだけでなく世の中のさまざまな仕組みや医療に関する政策の決定過程など、より広い視野をもち多分野に目を向けることで、歯科医師あるいは歯科そのものの社会的地位が向上するのではないかという思いでした。
多くの歯科医師の先生方は、臨床あるいは生涯学習を通じて、歯科医療技術の向上について非常に関心が高いことは認識しています。一方で、高齢社会が進むにつれて有病者や要介護者などへの歯科医療の提供が望まれるようになり、全人的な歯科医療の提供や歯科医師個人の人間性の向上が求められています。国民により信頼される歯科医師となるためには、より社会に貢献する姿勢が必要です。また、国でさまざまな政策を立案する際には、山形県や埼玉県での歯科保健計画の策定や事業の実践、支払基金での支部視察における意見交換や現場での多職種の方々との連携といった経験がその基盤となってきたように思います。
今後は、このような経験を活かし、将来、社会性をもち、地域の中でさまざまな人たちと協働し、社会貢献を積極的に行うことができる歯科医師の養成に尽力していきたいと思っています。そのためには、具体的には①わが国の社会保障の現状、②医療に関する基本的な法制度、③国の政策における歯科保健医療の位置づけ――などについて、学生が学ぶための手助けができればと思っています。
国の社会保障のあり方と連動した歯科医療政策を進めていくためには、もちろん国の政策における歯科保健医療の位置づけを知ることが重要です。これらを歯科医師が理解することは、自身や歯科医療機関に求められている役割を認識することに役立ち、将来歯科医師になる学生にとっては、目指すべき方向性の気づきにつながります。
また、国の政策における歯科治療の需要の将来予想を知ることも大切です。その理由は、近年の診療報酬改定がこれまでの「治療中心型」の歯科治療から口腔機能の維持・回復(獲得)をめざす「治療・管理・連携型」への歯科治療の転換に沿って行われているからです。
歯科医師の多くは臨床に従事する方がほとんどです。歯科医療の将来像を学生のうちから意識しておくことは、学生自身が自分のキャリアパスをイメージする際に、非常に重要であると思っています。