2021年9月号掲載
現代美術で社会的課題の解決を目指す
歯科医師・長縄拓哉氏(デジタルハリウッド大学大学院、ムツー株式会社代表取締役)にはもう1つの「顔」がある。最近では歯科学会のポスターを手がけたり、個展を開催したりという現代美術作家としての顔だ。本欄では、氏が追求し続ける「痛み」と「アート」の関係性、また現代美術をとおして社会的課題の解決を目指す想いに迫る。
長縄:2021年5月下旬から約1か月間、「蔦屋家電+」 (東京都)で現代美術作品(絵画)の展示「アートが痛みを減らすっ展!?」を開催させていただきました。本展示では、医学情報を含んだアートを身につけてコミュニケーションを促す研究プロジェクトとして、医療に対する無関心層へのアプローチ・行動変容を促す実験展示・検証を行いました。コロナ禍にもかかわらず、多数ご来場いただきました。
自著『医療・介護の現場で役立つベーシック・オーラルケア』(小社刊)でふれていますが、私の専門である口腔顔面痛をはじめとする治せない病気(痛み)を医療以外のアプローチでの解決を目指すべく、現在ではデジタルハリウッド大学大学院生として研究しています。今回はその取り組みの1つとして、歯科医師である私が描いた現代美術作品を展示することで、普段医療や健康に関心のない方(健康な方)に興味をもっていただき、また展示だけでなくコンテクスト(作品の背景や文脈)に共感していただいた方にTシャツやステッカーなどを購入していただくことで、新しいコミュニケーションが生まれることを目指しました。私の作品をきっかけにコミュニケーションが生まれ、他人事だったことが自分事化され、またそれらの情報を他のだれかに伝えることで、さらに広がっていくイメージです。
展示後のアンケート調査では、ほぼ全員がアート作品をきっかけにコミュニケーションが生まれたと回答しています。今回の展示を含めた活動については、近く論文にて発表する予定です。
歯科界では口腔ケアを含めた予防歯科のアプローチ、メインテナンスの重要性は当たり前のことですが、いまだに歯科医院は「痛くなってから行く」という方が少なくありません。また医療・介護分野では、口腔ケアは大切だけれども専門領域外のためどこか他人事になりがちですので、少しでも関心をもっていただき解決できるような取り組みが求められていると考えています。多職種連携が推進されるなか、私がかかわっている(一社)訪問看護支援協会の「BOCプロバイダー」のグループ内でも口腔ケアに関する事例を共有したり、啓発ポスターを作ったりしています。
私のような現代美術作家が医療をテーマとした作品をとおして問題提起することで医療に少しでも関心をもっていただきより身近になることで、医療に関する課題をともに解決していただけるような多職種や企業が増え、結果的に国民の健康に貢献できればうれしく思います。
10月には、銀座にて新たに個展を開催する予定です。